石井未来 特任専門員

研究の面白さを、もっと多くの人々に知ってほしい

ハワイ観測所
特任専門員

石井未来

Miki Ishii

わかるように伝えることの難しさ、奥の深さ

国立天文台全体の広報とはまた別で、私はTMT(Thirty Meter Telescope)とすばる望遠鏡専任の広報担当になります。すばる望遠鏡に関しては、現地の広報担当と連携して「観測成果」、「トピックス」といったウェブコンテンツをリリース。TMTの方はもう少し幅広く、広報業務全般を行っていて、TMTのウェブサイトのリリースのほか、展示会のような普及活動、SNS運用なども担当します。

リリース関係などは研究者の方々から原稿案をいただいて、それを編集するのですが、一般の人にわかるように伝えるのって難しいし、奥が深いなぁと思います。私も以前は研究職でしたが、論文を書いているだけでは、そこはなかなか気づけなかっただろうと。でも論文って一般にはなかなかわかりにくいですが、面白い研究がたくさんあって。それを多くの方々にも理解してもらえるように伝えるのは、広報の仕事の醍醐味(だいごみ)だと思います。

インタビューの様子

ハワイ観測所赴任、結婚、妊娠、職探し……、そしてTMT広報へ

国立天文台で仕事を始めたのは2002年。博士課程が終わった後は、研究者としてやっていきたいと思っていたので、当時、海外も含めていくつか応募しました。そして採用されたのが国立天文台で、最初は光赤外線天文学・観測システム研究系の教務補佐員で研究を仕事としていました。そして2年後にハワイ観測所へ移って、約10年間、観測支援研究員を。仕事の半分はすばる望遠鏡を使って観測する方のお手伝い、残りの半分で自分の研究をするという毎日でした。

その間に同じ職場の人と結婚したのですが、夫はその後、任期が終わって帰国してしまったんですね。夫がいなくなっちゃって、じゃあ私もちょっと(日本での)職を探そうと。実はそのとき妊娠していて、そうすると子供や次の世代のためにどういうことができるかとか考えるわけです。そこへちょうどTMTの広報の募集が出ていて。TMTの広報ならば、自分の今までの経験が生かせるかなと思ったのと、それから将来、活躍する望遠鏡のために、何か自分ができること……、そういうことに力を尽くすというのはいいんじゃないかなと、そんなことを考えてこの仕事に応募しました。

何年通っていても、この自然環境の素晴らしさに感動します

ハワイから三鷹に移り、出産して最初の1年は保育園に預けられなくて……。そのとき夫は岡崎に単身赴任していたので、シングルマザーのような状態でしたし、体力的にもとても大変でした。1歳からやっと保育園に入れたのですが、その頃、国立天文台にも保育ルームができたんですよね。「三鷹・星と宇宙の日」とか土曜日に仕事が入った時など、数回、一時預かりで国立天文台内の保育ルームも利用しました。たまにしか使わなくても、そういう受け皿があると思うと心強いですよね。 子供は今、小学2年生になりましたが、時々、国立天文台にも来ますよ。息子は星より虫に夢中で(笑)、ここに来ると虫を探し回っています。自然環境が本当に素晴らしいですからね、ここは。今の季節はちょうど紅葉がきれいで、何年通っていても見る度に「あー、幸せ」「生きていて良かった」と、喜びがわいてきます。

三鷹キャンパス内の紅葉と

子供向けのコンテンツ……、興味のきっかけを作りたい

最近は研究者の意識が変わってきたように感じます。私が学生の頃は研究さえしていれば良かったのですが、今は研究の成果を広く知ってもらう、そういう広報・普及に熱心な方が増えました。毎年秋に催される「三鷹・星と宇宙の日」というイベントの企画も、広報の大きな仕事の一つですが、国立天文台内の職員の力が結集されて、まさにみんなで“やり遂げる”感じです。2021年はオンライン開催だったので、すばる望遠鏡・TMTでも子供向けの動画を作りました。で、それを息子に見せたところ、最初の“つかみ”の部分とクイズは「面白かった」と。でもその間の、科学的な説明の部分は「全然見ていなかった」と言っていました(笑)。やっぱり難しいですよね。でも必ずしもわかってもらう必要はないと思っています。まず興味を持ってもらうことが大事だと思うので、それはそれで良いと。どこか記憶に残るところがあればいいと思っています。

いつ実現するか分かりませんが、いろいろな媒体で研究を紹介する際、もうちょっと子供向けのコンテンツがあるといいなと考えています。興味のきっかけ作りができたらなと。また大人も含めて、国立天文台を良く知らない人にも届く方法ももっと探っていくべきじゃないかと。そのために自分はどんなスキルを身につけたらいいのかとか、まだまだ模索中です。越えるべき小さなハードルはたくさんありそうです。

「三鷹・星と宇宙の日」で子供たちに人気のカードゲームについて解説
カードには様々な天体の写真が印刷されている

取材日:2021年11月26日/公開日:2022年2月24日
取材・文:臼田雅美/写真:長山省吾
掲載内容は一部を除き取材時のもの

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