人間の材料はどこから来たのか?
さまざまな元素から、生命が生まれた
現在の地球では、私たち人間をはじめとして、陸上にも多くの生命が繁栄しています。しかし、かつては海だけが生命の世界でした。地球最初の生命も、太古の海中で誕生したのです(※)。海に含まれるさまざまな元素が組み合わさり、しだいに複雑な有機物となるという化学反応が、やがて最初の生命の誕生につながったと考えられています。こうして生命を生み出した地球は、では、どのようにしてこの宇宙に生み出されたのでしょうか?

※ 地球最初の生命がいつ生まれたのかはまだわかりませんが、発見されている最古の化石は約35億年前のものです。
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サムネイル一覧オーストラリア西部で発見された、約35億年前の微生物の化石。生物そのものの化石としては、世界最古のものです。(J.William Schopf, UCLA)

生命を生み出すステージが整う
地球を含む太陽系の仲間たちが誕生したのは、およそ46億年前。宇宙を漂うガスやダストの集まりからしだいに太陽がかたちづくられ、同じ頃、その周囲をまわるガスやダストが、地球やその他の惑星となっていったのです(※)。では、このガスやダストはどこからやってきたのでしょうか? それは、いまはもう消えてしまった星々が宇宙に残した"かけら"だったのです。

※ 宇宙には、空気のような気体(ガス)と、砂粒よりも細かな固体(ダスト)が大量に漂っている場所があります。

参考リンク: すばるが写し出した、うずまき状の惑星誕生現場(すばる望遠鏡)
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サムネイル一覧ハッブル宇宙望遠鏡(青)とアルマ望遠鏡(オレンジ)がとらえた、みなみのうお座フォーマルハウトの周囲を取り巻くダストの環。(ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope)すばる望遠鏡が撮影した、太陽系外惑星アンドロメダ座カッパ星b。中心の明るい星を特殊なデータ処理により隠し、暗い惑星(写真左上の点)を直接検出することができました。(NAOJ)

元素をばらまく、星の大爆発
太陽系の材料となった"かけら"たち。それを作り出し、宇宙にばらまいた原因のひとつは、「超新星爆発」でした。太陽の10億倍以上も明るく輝く爆発は、星の中の元素を一気に別の元素へと変えてしまいます。2種類ある超新星爆発のうち、太陽よりずっと重い星が起こす爆発では、星の中で作られた酸素などの元素が飛び散ると同時に、金や銀のような元素が生み出されます。一方、白色矮星を含む連星が起こす爆発は、私たちの身体に欠かせない鉄を多く作り出します。

参考リンク: 虚空に浮かぶ超新星残骸:すばる主焦点カメラが捉えた かに星雲の変容(すばる望遠鏡)
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サムネイル一覧1987年2月に大マゼラン雲に出現した超新星1987A。この超新星爆発によって飛び出した微粒子ニュートリノを検出した功績が認められ、小柴昌俊氏は2002年のノーベル物理学賞を受賞しました。(AAO/David Malin Images)すばる望遠鏡が撮影した、超新星残骸M1(かに星雲)。1054年に出現した超新星爆発のなごりで、「木星ほどの明るさで輝いた」と藤原定家の『明月記』にも記されています。(NAOJ)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、はくちょう座の網状星雲。およそ15,000年前に爆発した超新星の残骸です。周囲のガスと交じり合いながら広がっていく星雲の姿がとらえられています。(NASA/STScI)

一生を終え、宇宙に溶ける星
すべての星が、一生の最後に超新星爆発を起こすわけではありません。太陽のような比較的軽い恒星は、寿命がくると、ゆっくりと自分自身を作っていた物質を宇宙に放出し始めます。星はしだいにかたちを失い、星の芯の部分だけを中心に残して、宇宙空間へと広がっていくのです。これを「惑星状星雲」といい、丸いものや細長いものなど、さまざまな姿のものがあります。

参考リンク: すばる望遠鏡が捉えた環状星雲を包む微かなハロー(すばる望遠鏡)
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サムネイル一覧ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、こと座のリング星雲M 57。一生を終えつつある中心の星から噴き出したガスが、リング状に広がっています。(The Hubble Heritage Team (AURA/STScI/NASA))チョウが羽を広げたように見える、惑星状星雲NGC 6302。太陽の5倍ほどもあった星が一生を終えて、2000年以上にわたってガスを噴き出している姿です。(NASA, ESA, and the Hubble SM4 ERO Team)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、惑星状星雲 NGC 2818。一生を終えつつある中心の星から噴き出したガスが、幅5光年にわたって広がっています。(NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA))ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、惑星状星雲 NGC 2392。毛皮のフードをかぶった人の顔に見えることから、エスキモー星雲と呼ばれます。フードの部分は星から噴き出したガスが作る円盤を上から見ている姿だと考えられています。(NASA, Andrew Fruchter and the ERO Team [Sylvia Baggett (STScI), Richard Hook (ST-ECF), Zoltan Levay (STScI)])ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、惑星状星雲NGC 5189。中心には連星があり、その重力の影響でこのような複雑な形の星雲が作られたと考えられています。(NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA))
サムネイル一覧ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、惑星状星雲IC 4406。一生を終えた星から噴き出したガスとダストが作り出す複雑な陰影が網膜に似ていることから、網膜星雲とも呼ばれています。(NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA))

年老いた星は、元素の工場
多くの恒星は年老いると、まわりの惑星を飲み込むほどに膨らんで赤色巨星になります。中心ではこのとき、それまで恒星を輝かせてきた「核融合反応」の燃料である水素がなくなり、ヘリウムから炭素や酸素を作る、別の核融合反応が進みます。太陽よりずっと重い恒星は、より大きい赤色超巨星や外層を失ったウォルフ・ライエ星になり、中心ではさらに核融合反応が進行してケイ素や鉄などの元素が作られます。私たち人間にとって重要な元素の多くは、こうして年老いた恒星の内部で作られたのです。
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サムネイル一覧ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、オリオン座に輝くベテルギウス。年老いて大きくふくらんだ星で、ベテルギウスを太陽の位置に置くと木星までもが飲み込まれてしまうほどの大きさです。(NASA/STScI)

成熟し、宇宙に輝く星
恒星は生涯のほとんどを「主系列星」として過ごします。これはいわば、一人前となった恒星の呼び名。その中心では、4つの水素原子から1つのヘリウム原子を作る核融合反応が進んでおり、この反応が、恒星が放つ大量の光を生み出しています。星が主系列星として輝く期間は、その星の質量で決まります。太陽より軽い星の場合は100億年以上ですが、太陽の10倍重い星は、数千万年にとどまります(※)

※ 私たちの太陽の寿命は100億年あまり。数十億年以上先の遠い将来には赤色巨星となり、最終段階では白色矮星になります。
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サムネイル一覧おうし座にある散開星団M45。日本では「すばる」と呼ばれます。肉眼では6個くらいの星が集まって見えますが、実際には1000個ほどの若い星からなる星団です。(NASA/STScI, AURA/Caltech)はくちょう座のくちばしの位置に輝く二重星アルビレオ。ふたつの星の色の違いは、星の表面温度の違いを表しており、青いものほど高温の星、赤いものほど低温の星です。(NAOJ)国立天文台石垣島天文台105cm望遠鏡が撮影した球状星団M15。球状星団は年老いた星が数十万個以上集まった天体で、M15の年齢は125億歳と考えられています。(NAOJ)

星の誕生と成長
恒星を生み出す材料となるのは、宇宙に漂うガスやダストです。これらが大量に集まることで、星の赤ちゃんともいうべき「原始星」がかたちづくられます。このとき集まってきた物質の一部は、細いガスの流れである「ジェット」となって、また原始星から飛び出していきます。物質が集まり続け、中心部分の温度と圧力が上がってくると、いよいよ核融合反応が始まり、原始星は主系列星となって宇宙に輝き始めます。

参考リンク: シルエットで浮かび上がった原始星エンベロープの全貌(すばる望遠鏡)
参考リンク:JSTバーチャル科学館・星空紀行
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サムネイル一覧すばる望遠鏡が撮影した原始星M17-SO1。中心に、ガスやダストが濃く集まった部分から生まれている星があります。左右の黒い筋は、原始星の周りをまわるガスやダストの円盤だと考えられています。(NAOJ)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した原始星ジェットHH47。画像左下にある原始星から噴き出されるジェットの長さは、5兆km(地球-太陽間距離の約3万倍、0.5光年)にも達します。(NASA/STScI)

元素は宇宙を流転する
銀河の中で、ガスとダストが特に濃く集まった場所を「分子雲」と呼びます(※)。その主成分は水素分子ですが、水や一酸化炭素、アルコールなどの分子もごくわずかに含まれます。これらは、前の世代の星たちが一生を終える時にばらまいた多様な元素でできています。つまり星は、元素から生まれ、元素に還るのです。私たちの身体も、地球や太陽、夜空の星々も、みんなこの元素の大循環の一部。そして宇宙を流転する物質のすべては、さかのぼれば、宇宙最初の3分間に生み出された物質へと行きつくのです。

※ 分子雲は暗い雲のように見えるものや、まわりの星に照らされて輝いて見えるものがあります。

参考リンク: すばる望遠鏡が捉えたオリオン星雲(すばる望遠鏡)
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サムネイル一覧暗黒星雲B68。宇宙に雲のように浮かぶガスとダストが、後ろにある星からの光を吸収・散乱させるので、暗黒星雲として観測されます。(ESO)M42(オリオン座大星雲)の中心部。太陽の数十倍も重い星を含め、数多くの星が生まれている現場です。星からの光に照らされて、星雲が輝いています。(NAOJ)M16(わし星雲)の一部。濃いガスやダストが後ろの星雲の光をさえぎって暗く見えます。近くの星の光を受けて、星雲の端が輝いて見えます。(NASA/STScI)