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重力波

重力波は、アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)によって、自身が提唱した一般相対性理論からの帰結として1916年に予言されました。簡単に言うと、重力波とは空間の2点間の距離が伸び縮みすることによって伝わる時空のさざ波です。そのため、音波などのような、その波を伝える物質(媒質)の中を伝わる波とは全く異なる性質を持っています。また、アイザック・ニュートン(1642-1727)が見いだした万有引力の法則では扱うことができません。

重力波は、作られ方も特殊です。ブラックホールや中性子星といった極めて高密度でコンパクトな天体どうしの連星が合体したときに限って、大量に放出されるのです。いくら重い星の運動であっても、膨張や収縮などの球対称的な動き方では重力波はまったく作られません。

合体する中性子星どうしの連星からの重力波。(クレジット: R. Hurt/Caltech-JPL)

重力波を初めて直接検出したという成果は、アメリカのLIGO(ライゴ)実験チームによって2016年に報告されました。約13億光年の距離にある、それぞれが太陽の約30倍の重さを持つブラックホールどうしの連星の合体により作られた重力波でした。2017年のノーベル物理学賞は、この検出に貢献したLIGO実験チームのワイス氏、ソーン氏、バリッシュ氏の3人に授与されています。

実は、それ以前にも重力波の存在は間接的に示されていました。中性子星どうしの連星が、重力波を放出することで軌道半径を縮めていくという現象が観測されていたのです。この功績により、ハルス氏とテイラー氏にノーベル物理学賞が1993年に授与されています。

2017年以降、中性子星どうしの連星や、中性子星とブラックホールからなる連星が合体して放出された重力波も直接観測され、これまでに90例以上の合体イベントが公式に報告されています。現在では、LIGOに加え、ヨーロッパのVirgo(バーゴ)と日本のKAGRA(カグラ)の2台の重力波望遠鏡も共同研究に加わっています。これは重力波天文学が本格的に始動したことを意味します。今後、光では見ることができない未知の現象が、重力波の観測により続々と明らかになってくることが期待されます。

ブラックホールどうしの連星の合体では重力波しか観測できませんが、中性子星どうしの連星が合体すると、重力波に加えて、粒子線であるニュートリノや、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波など様々な波長の光(電磁波)が放出されます。コンパクト天体の合体現象は、電磁波だけではない、重力波や様々な粒子の情報を活用して天体を研究する“マルチメッセンジャー天文学”の重要な研究対象となります。

太陽ほどの質量を持つ天体が合体したときに放出される重力波の周波数は約100ヘルツ近辺で、干渉計と呼ばれる装置で検出されてきています。将来は次世代の技術により、人工衛星を活用した干渉計を構築し、宇宙で重力波を観測することが期待されています。ヨーロッパのLISA衛星では約1000分の1ヘルツ、日本のDECIGO衛星では0.1ヘルツという低い周波数の重力波をとらえる観測が計画されています。

その一方、複数のパルサーの周期を正確に測ることで、背景に存在する重力波(背景重力波)を間接的に測定するパルサータイミング法が提案されています。北アメリカナノヘルツ重力波天文台(NANOGrav)はこの手法を用いて、ナノ(10億分の1)ヘルツ近辺の超低周波数の重力波を捉えたと2023年に発表しました。理論的には、この重力波はおそらく太陽の10億倍ほどの質量を持つ超巨大ブラックホールどうしの連星が合体したときに作られたものだろうと考えられていますが、まだ確定していません。将来の観測計画であるSquare Kilometer Array(SKA)で測る精度の良いパルサータイミング法で決着がつくと期待されています。

重力波のエネルギー密度の割合。郡 和範 著 「ニュートリノと重力波」ベレ出版 (2021) より改変。

天体の合体時に生じる重力波に加えて、宇宙初期に起こったとされるインフレーションの過程で、激しい加速的な膨張が作ったとされる背景重力波が予言されています。しかし、その信号は強度がたいへん弱いと予想されており、先に述べた次世代の人工衛星実験DECIGOなどによる直接検出が待たれます。一方で、インフレーション起源の背景重力波が存在する宇宙の中で宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光子と電子が散乱を起こすと、CMB光子の偏光面は天球面の上で渦巻き模様のような特徴ある形を持ちます。B-モード偏光と呼ばれるこの特徴的な渦巻き模様を将来のCMB観測で見つけることができれば、初期宇宙にインフレーションが起こったことを確かめることになります。この背景重力波の周波数は極めて低く、約100京分の1ヘルツです。背景重力波の検出を通して、インフレーションのエネルギーや、インフレーションがどのタイミングで起きたかなど、宇宙の誕生の謎を解明することが期待されています。

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公開日:2025年5月23日

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