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ダークエネルギー

クレジット:国立天文台

現在の宇宙を満たしているエネルギーの中で、最もエネルギー量が多いのは、約70%を占めるダークエネルギー(暗黒エネルギー)と呼ばれる成分です。ダークエネルギーは、宇宙を加速的に膨張させる、言わば反重力のような役割があります。
ダークエネルギーは、重力を記述するアインシュタイン方程式における宇宙定数もしくは宇宙項として、アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)によって約100年前に提唱されました。この記事では、宇宙定数と宇宙項とは区別せずに用いることにします。アインシュタインは、宇宙が自分自身の重力で潰れないようにするために、仮想的に反重力の成分が必要だと考えて、理論的な根拠なくアインシュタイン方程式に宇宙項を追加しました。しかしその直後、アレクサンドル・フリードマン(1888-1925)が宇宙項のないアインシュタイン方程式を解いて膨張する宇宙の解(フリードマン解)を発表し、さらにエドウィン・ハッブル(1889-1953)が宇宙膨張を観測的に立証すると、アインシュタインは宇宙項を付け足すアイディアを”人生最大の誤り"として取り下げました。
時はすぎて1990年代後半、驚くべきことに宇宙は加速膨張しているとの観測的証拠が2つの研究グループにより発見されました。ほぼ一定の光度を持つことが知られている、Ia型超新星の観測による成果です。ダークエネルギーがある宇宙は、ダークエネルギーがない宇宙に比べ、宇宙誕生から約70億年以降には膨張が加速して急激に大きくなります。この時代に爆発したIa型超新星は従来の予想よりも遠いために暗く観測され、ダークエネルギーがある宇宙での理論予測とぴったり一致したのです。2000年代と2010年代には、宇宙マイクロ波背景放射の非等方性や銀河サーベイなどの別の独立な観測でも、ダークエネルギーの存在を支持する結果が発表されました。ダークエネルギーという言葉が定着したのもこの頃からでした。宇宙項が完全な定数でなく時間変化する可能性も考慮して、アメリカの物理学者マイケル・ターナー氏が命名したと言われています。
2011年のノーベル物理学賞は、1998年に発表された宇宙の加速膨張の発見に対して、それぞれの研究グループを主導するアメリカグループのパールムッター氏、オーストラリアグループを主導するシュミット氏とリース氏の3名に贈られました。加速膨張を引き起こすダークエネルギーの存在を、一部の専門家だけではなく世界が認めたことを意味します。
加速膨張を引き起こす宇宙定数のエネルギースケールは、これまでの理論計算より約60桁も小さなものでした。もし宇宙定数が観測から示唆される量よりわずか3桁だけでも大きければ、宇宙は加速的に急激に膨張してしまい、銀河すら生まれません。当然、銀河の中に生まれる太陽のような恒星や、その周りに形成される惑星は作られませんので、人類などの生物も生まれません。つまり、60桁も大きい誤った宇宙定数では、現在のような宇宙にならないのです。この宇宙定数が小さすぎるという問題は、現代物理学において解かれていない大問題の一つです。これほど小さなダークエネルギーがどのように必然的に生み出されるのかを説明する理論を作ることが、天文学・物理学の次の課題です。
2024年、銀河サーベイの観測チームDESIにより、ダークエネルギーが時間的に変化する可能性があるとする新しいデータが発表されました。その真偽は今後の追観測を待たなければなりません。しかし、ますます、ダークエネルギーの理論と観測から目が離せません。


今号のデスクを務めた郡教授による解説動画【宇宙にめっちゃ夢中第7回】ダークエネルギー編(クレジット:素核研チャンネル)

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公開日:2025年5月23日

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