国立天文台 メールニュース
No.220(2020年9月18日発行)冷えた銀河団の中心で生まれた若いジェットを発見 他
_____________________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.220(2020年9月18日発行) _____________________________________________________________________ 国立天文台のイベントや研究成果、注目したい天文現象などを、メールで お届けする不定期発行のニュースです。 どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 ----------------------------------------------------------- ■冷えた銀河団の中心で生まれた若いジェットを発見 ■6mミリ波電波望遠鏡が日本天文遺産に認定 ■第30回 自然科学研究機構シンポジウム:オンライン講演会 ----------------------------------------------------------- ■冷えた銀河団の中心で生まれた若いジェットを発見 数十から数千個の銀河が集まって形成される銀河団の中は、1千万度を超える 高温のガスで満たされています。やがてこの高温のガスが冷えると銀河団の中 心に存在する巨大銀河に向かって降り積もり、そこで多くの星が作られると 予想されています。 しかし、天の川銀河の近傍の銀河団では、その中心部のガスの冷却が見らま せん。その原因として、銀河団の中心の銀河に存在する超大質量ブラックホー ルから噴き出すジェットが、ガスの冷却を妨げていることが考えられてきまし た。 一方で、約59億光年というやや遠い距離にある「ほうおう座銀河団」の中心 部には、爆発的に星を作り出す巨大銀河が存在しています。アルマ望遠鏡によ る観測から、この銀河団の中心では大量のガスが冷えていることが既に分かっ ていて、このガスの冷却が爆発的な星形成の種ではないかと推定されました。 ところで、このほうおう座銀河団の中心の銀河には、ガスの冷却を妨げる ジェットは存在しないのでしょうか?これまでの観測では、解像度や感度が足 りず、ジェットが見つかっていなかったのです。 今回の研究では、従来よりもさらに高い周波数の電波を長時間にわたって観 測することで、ほうおう座銀河団の中心部について高感度かつ高解像度のデー タを得ることができました。その結果、中心の銀河から噴き出すジェットを捉 えることに成功したのです。ジェットの年齢は銀河団に比べてたいへん若く、 誕生から数百万年と推定されました。銀河団の中心部で大量のガスが冷えてい るにもかかわらず、ジェットの存在を確かめたこの観測は、ジェットが高温ガ スの冷却を妨げてはいないことを示しており、これまでの理解に疑問を投げか ける形になりました。 銀河団の冷却と加熱を理解するためには、さらなる観測と研究が求められます。 ▽不死鳥は甦るか?―冷えた銀河団の中心で生まれた若いジェットを発見― https://www.miz.nao.ac.jp/veraserver/hilight/20200831_phoenix/ ▽超巨大ブラックホール・ジェットが星の誕生を促す https://alma-telescope.jp/news/mt-post_697 ■6mミリ波電波望遠鏡が日本天文遺産に認定 日本の宇宙電波天文学の礎となった「6mミリ波電波望遠鏡」が、日本天文遺 産に認定されました。6mミリ波電波望遠鏡は、現在、国立天文台三鷹キャンパ スで保存・公開されていて、外観を自由に見学することができます。 6mミリ波電波望遠鏡は東京大学東京天文台(現在の国立天文台)の三鷹キャ ンパス内に、世界で3番目、日本で初めてのミリ波電波望遠鏡として1970年に 完成しました。研究者と技術者が試行錯誤を重ねて完成させたこの電波望遠鏡 は、直径6メートルと小型ながらも、新たな星間分子の検出などで画期的な成果 を挙げ、日本の宇宙電波天文学の黎明(れいめい)期を支えました。 6mミリ波電波望遠鏡で培った技術は、当時世界最大・最高性能のミリ波望遠 鏡として1982年に完成した野辺山宇宙電波観測所45メートル電波望遠鏡に結実 しました。また、45メートル電波望遠鏡による数々の研究成果は、南米チリの アルマ望遠鏡での観測研究にも引き継がれ、現在の宇宙電波天文学の飛躍的な 発展につながっています。 三鷹での運用を終えた6mミリ波電波望遠鏡は、1988年に水沢、1989年に野辺 山とその活躍の場を移し、1992年には鹿児島県の錦江湾公園に移設され、鹿児 島大学を中心とした観測研究活動でVLBI観測網の一翼を担いました。 鹿児島での運用終了後は再び三鷹の地に戻り、2018年10月からは日本の宇宙 電波天文学の歩みを伝える重要な歴史的資産として、一般見学エリアで保存・ 公開されています。 日本天文遺産は、歴史的に貴重な天文学・暦学関連の遺産を大切に保存し、 文化的遺産として次世代に伝え、その普及と活用を図ることを目的に、公益 社団法人 日本天文学会が認定するものです。この6mミリ波電波望遠鏡は、 天文学上重要な史跡・建造物として、第2回(2019年度)日本天文遺産に認定 されました。 ▽6mミリ波電波望遠鏡が日本天文遺産に認定 https://www.nao.ac.jp/news/topics/2020/20200908-6m.html ▽6mミリ波電波望遠鏡 https://www.nao.ac.jp/access/mitaka/facilities/6m.html ■第30回 自然科学研究機構シンポジウム:オンライン講演会 第30回 自然科学研究機構シンポジウムを、来る9月26日に開催いたします。 今回のテーマは「宇宙科学と生命科学の深~いつながり」です。 生命とは何か、そしてどこから来てどこへ向かって進んでいるのか、地球上 の生命はどのようにして成り立っているのか―このような大きな命題を解明 するために、研究者はどのように考え、日々の研究に取り組んでいるのでしょ うか。今回のシンポジウムでは、宇宙と生命科学といった、二つの分野をまた いだ最先端研究を行っている3名の気鋭の研究者による講演を企画しています。 講演後には、3名の講演者がご参加の皆さんからの質問に答えるパネルディス カッションを予定しています。 今回の自然科学研究機構シンポジウムは、オンライン講演会として無料のラ イブ配信を行います。ご参加のお申し込みは不要ですが、講演者への質問は事 前に登録を行っていただく必要があります。 講演プログラムや視聴の方法、質問の事前登録の方法などの詳細は、第30回 自然科学研究機構シンポジウム特設サイトをご覧ください。なお、ライブ配信 のみ行い、アーカイブはされませんので、ぜひライブでお楽しみください。 開催概要 ・テーマ:宇宙科学と生命科学の深~いつながり ・日時 :2020年9月26日(土)13:30-16:30 ・主催 :大学共同利用機関法人 自然科学研究機構、名古屋市科学館 ・内容 第1部 講演会 1.人類が初めてみたブラックホールの姿 本間希樹 国立天文台 教授 2.有機物顕微分析法の宇宙科学への展開 大東琢治 分子科学研究所 助教 3.宇宙実験からアルツハイマー病の解明を目指す! 矢木真穂 分子科学研究所 助教 第2部 パネルディスカッション 3名の講演者が皆さんの質問・疑問にお答えします 自然科学研究機構は、自然科学の最先端研究と未来への取り組みを広くお伝 えするため、「自然科学研究機構シンポジウム」を年に2回開催しています。 多くの皆様のご参加をお待ちしています。 ▽第30回 自然科学研究機構シンポジウム(自然科学研究機構 分子科学研究所) https://www.ims.ac.jp/sympo30.html ▽第30回自然科学研究機構シンポジウム(自然科学研究機構) https://www.nins.jp/site/connection/sympo30.html _____________________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2020年9月18日 _____________________________________________________________________