国立天文台 メールニュース
No.210(2019年10月31日発行)すばる望遠鏡、130億光年かなたの宇宙に原始銀河団を発見 他
_____________________________________________________________________ 国立天文台 メールニュース No.210 (2019年10月31日発行) _____________________________________________________________________ 国立天文台のイベントや研究成果、注目したい天文現象などを、メールで お届けする不定期発行のニュースです。 どなたでも無料でニュースを受け取ることができます。 --------------------------------------------------------------- ■すばる望遠鏡、130億光年かなたの宇宙に原始銀河団を発見 ■イベント・ホライズン・テレスコープが基礎物理学ブレイクスルー賞を受賞 --------------------------------------------------------------- ■すばる望遠鏡、130億光年かなたの宇宙に原始銀河団を発見 宇宙には、巨大な銀河を含む1000個超もの銀河が集まった「銀河団」が多数 存在しています。これら銀河団は互いに結びつき、「宇宙の大規模構造」と呼 ばれるさらに大きな構造を形成しています。銀河団は宇宙の構造の言わば屋台 骨であり、その銀河団が宇宙の歴史の中でどのように形成されていったかを知 ることは、宇宙の大規模構造と銀河進化の謎に迫るためにたいへん重要です。 初期宇宙には、銀河団の形成途中の姿とされる十数個程度の銀河団の集まり 「原始銀河団」が存在すると考えられています。宇宙の歴史の中で銀河団はい つ頃作られたのか、古い原始銀河団を探し調べることで、その疑問を明らかに できるとされています。 国立天文台、東京大学の研究者を始めとする研究チームは、すばる望遠鏡の 超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム、 HSC) を用いて初期宇宙に存在する原始銀河団の探索を行い、くじら座の方向 に原始銀河団「z66OD」を発見しました。また、他の望遠鏡を使った分光観測 から、この天体に含まれる12個の銀河までの距離がいずれも129.7億光年である ことが分かりました。これは宇宙が誕生してからおよそ8億年の時代にあたり ます。これまでの観測でも多くの原始銀河団が見つかっていますが、今回発見 されたz66ODは、現在知られている中で最も遠い原始銀河団となります。 さらに、z66ODの中では激しい星形成が行われていることが明らかになりま した。大質量の原始銀河団に星形成の材料となるガスが周囲から大量に供給さ れて星形成が活発に起こり、銀河団へと成長していることが考えられます。 このz66ODを構成する銀河の中には、大質量の巨大ガス雲天体 (注) が存在 することも分かりました。しかし意外なことに、この巨大天体は原始銀河団の 中心ではなく、中心から5000万光年も離れた場所に位置していました。近年の 観測では、原始銀河団の中に塵 (ちり) に覆われた巨大な銀河が存在すること も分かってきています。今後z66ODをアルマ望遠鏡で観測することで、塵に隠 された巨大銀河が見つかる可能性もあり、z66ODの全容解明に近づくことがで きるかもしれません。 注:2009年に宇宙年齢約8億年の初期宇宙に発見された、巨大ガス雲天体。 初期宇宙の天体としては異例の大きさの5万5千光年もの広がりを持つ 大質量の天体だが、その正体ははっきり分かっていない。発見した研究 者らにより「ヒミコ」と名付けらている。 https://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2009/04/22/j_index.html ▽すばる望遠鏡、130 億光年かなたの宇宙に銀河団を発見 https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/09/26/j_index.html ■イベント・ホライズン・テレスコープが基礎物理学ブレークスルー賞を受賞 人類初のブラックホールシャドウの直接撮像に成功した国際研究チーム「イ ベント・ホライズン・テレスコープ (Event Horizon Telescope、EHT)」が、 「2020基礎物理学ブレークスルー賞」を受賞しました。 この賞は、米国のブレークスルー財団が、生命科学、基礎物理学、数学の自 然科学3部門において飛躍的な進展を成し遂げた研究成果に対して贈る国際的な 学術賞です。 研究チームは、これまで誰も実際に目にしたことがないブラックホールの直 接撮像を試み、今回その“影”を直接捉えるという大きな成果を挙げました。 世界各地の8つの電波望遠鏡を連携させ、20の国と地域で活動する60機関の研究 者が協力して、M87銀河の中心にある巨大ブラックホールの姿を世界で初めて 描き出しました。 この授賞式は、来る11月3日に米国航空宇宙局 (NASA) エイムズ研究センター にて執り行われます。授賞式には、今回の成果をまとめた研究論文の共同執筆 者347名を代表して、ハーバードスミソニアン天文物理学センターの Shep Doeleman (シェップ・ドールマン) EHT代表が出席する予定です。受賞者 の中には、EHT日本チームの代表を務める水沢VLBI観測所長・本間希樹 (ほんままれき) 教授を始め、水沢VLBI観測所、チリ観測所、アルマプロジェ クトに所属する国立天文台の研究者11名が含まれています。 ▽Winners Of The 2020 Breakthrough Prize In Life Sciences, Fundamental Physics And Mathematics Announced (英語) https://breakthroughprize.org/News/54 ▽イベント・ホライズン・テレスコープ (EHT) が2020 基礎物理学ブレイク スルー賞を受賞 http://www.miz.nao.ac.jp/content/news/topic/20190906-358 ▽速報・ブラックホールの直接撮像に対して基礎物理学ブレークスルー賞の 授与が決定 https://www.nao.ac.jp/news/topics/2019/20190906-eht.html ▽アルマ望遠鏡スタッフがブラックホール観測で基礎物理学ブレークスルー 賞を受賞 https://alma-telescope.jp/news/breakthrough-201910 _____________________________________________________________________ 発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室 発行日:2019年10月31日 _____________________________________________________________________