今週の一枚
宇宙で最も冷たい天体の姿を描き出す

比較的軽い星がその一生を終えるとき、星の外層が宇宙空間に流出し、星雲を作ります。今回取り上げるブーメラン星雲はそんな段階にあり、原始惑星状星雲と呼ばれます。この天体は宇宙背景放射の温度(絶対温度2.7度)より低温の天体として知られており、星から噴き出したガスが膨張することで温度が下がっていると考えられます。この画像では、ハッブル宇宙望遠鏡で観測した星雲を紫、アルマ望遠鏡で観測した一酸化炭素ガスの分布を赤で示しています。アルマ望遠鏡の高い解像度のおかげで、星からのガス流が詳細に描き出されました。ガスの運動を詳しく調べることで、極低温の天体の成因を理解することができます。
文:平松正顕(チリ観測所)
静かな星の終焉が生み出す冷たい分子の世界
原始惑星状星雲は星の中で作られた物質を周囲の空間に放出していて、まさに宇宙の化学進化の現場とも言えます。急速に膨張するガスは低温になり分子や塵(ちり)を形成するため、それらが放つ電波を観測するアルマ望遠鏡にとっては格好の天体といえるでしょう。実際にこの観測で分子の広がりと速度を調べることで、ガスの放出が1500年ほど前から始まったものであることがわかっています。このような極限の環境でどのような分子が作られるのか、さらなる調査が期待されます。また、様々なバリエーションを持つ惑星状星雲の形がどのように生み出されるのか考察する上で、このような原始惑星状星雲の観測はきわめて重要です。このきれいな双極ジェットは、中心星が連星であったため、その伴星との相互作用で生み出されていると考えられています。
文:田実晃人(ハワイ観測所)
画像データ
天体 | ブーメラン星雲 |
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望遠鏡 | アルマ望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡 |
クレジット | ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); NASA/ESA Hubble; NRAO/AUI/NSF |