今週の一枚

時空のさざ波を待つ地下空間

時空のさざ波を待つ地下空間

大きな質量を持つ天体の運動で生じる時空の歪みが、波のように宇宙を伝搬していく。一般相対性理論に基づく重力波は、天体現象を検出し宇宙を観測する新しいチャンネルを開きました。いよいよ到来した重力波天文学の時代に、国立天文台も大型低温重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)の開発に参加、2017年度の低温運転開始を目指しています。岐阜県飛騨市、神岡鉱山の地下にうがたれたトンネルの中で、調整の進む装置が、時空のさざ波の届く日を待っています。

重力波天文学の始まり

国立天文台が東京大学宇宙線研究所、高エネルギー加速器研究機構などと共同で建設を進めているKAGRAは、3キロメートルの基線長を持つレーザー干渉計型重力波検出器です。レーザー光をL字型の二方向に分け往復させているところに重力波が到達すると、空間の伸縮によって光の干渉パターンが変化します。写真の左側で地下トンネルを伸びる真空パイプは、その一方向の経路(Yアーム)です。

2016年2月、一つの報告が世界をどよめかせました。アメリカのレーザー干渉計型重力波検出器LIGO(ライゴ)によって、重力波が初めて直接検出されたのです。物理学の歴史に刻まれるこの発見に、国立天文台重力波プロジェクト推進室のラファエレ・フラミニオ室長は、「今回の観測は物語の終わりではなく始まりです。重力波天文学の誕生です」と述べています。 LIGOが発見した重力波は、ブラックホール連星の合体によって放出されたものでした。今まで宇宙を観測してきた電磁波では見えない激変現象が重力波によって観測できるようになります。干渉計型重力波検出器は、単体では宇宙の中のどの場所から重力波がやってくるかを決定することができません。先行するアメリカの改良型 LIGO、ヨーロッパの改良型 Virgo(バーゴ)、そして日本独自の技術開発で高精度の検出を目指すKAGRAが今年世界の重力波観測の戦線に並ぶことで、私たちは本格的な重力波天文学の時代を迎えようとしています。

文:内藤誠一郎(天文情報センター)

画像データ

撮影日時2017年2月27日
撮影者長山省吾
クレジット国立天文台

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