今週の一枚
夜空に浮かぶ太古の目

ハワイ観測所では定期的に大学学部生向けの研究体験企画「すばるの学校」を開催しています。2015年の実習中には、たまたま変な形をした天体が発見されました。よくよく調べてみると、二つの遠方銀河が手前にある巨大銀河によって同時に重力レンズ効果を受けている、極めて珍しい重力レンズ天体であることがわかりました。そのユニークな見た目が古代エジプトのシンボルの一つに似ていることから、「ホルスの目」と名付けられました。
青いリングと赤いアーク
拡大画像の中心にあるオレンジ色の天体は70億光年の距離にある巨大銀河で、これが重力レンズ効果を引き起こしています。よく見るとその周りに青いリング状の天体と、赤いアーク(円弧)状の天体があるのがわかります。これらが二つの背景にある銀河です。赤い銀河が90億光年、青い銀河が105億光年離れていることを分光観測で確認しました。このように一つの巨大銀河が複数の背景銀河に重力レンズ効果を引き起こすのは極めてまれであり、背景銀河の距離まで正確に求めた初めての例でした。こういったまれな天体ですが、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)を用いて現在進められているすばる望遠鏡戦略枠プログラムでは、空の非常に広い領域を観測しているため、似たような天体があと10個ほど見つかると期待されています。それらを丁寧に解析すると、宇宙がどのように膨張してきたのかを探ることができることから、科学的に非常に価値がある天体として注目されています。
文:田中賢幸(ハワイ観測所)
画像データ
天体 | HSC J142449-005322 |
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望遠鏡 | すばる望遠鏡 |
観測装置 | Hyper Suprime-Cam |
波長 | 可視光-近赤外線(600-900ナノメートル) |
露出 | 20分 |
クレジット | 国立天文台 |