今週の一枚

天体の運行をつまびらかにする

天体の運行をつまびらかにする

日周運動する天の星々。その下で、国立天文台三鷹キャンパスにある自動光電子午環が星の通過を静かに待っています。

天文学の最も大事な基礎となるものは、正確な星図。子午環は、子午線に沿って南北方向にのみ向けられる特別な望遠鏡です。天体が子午線を通過する時刻を精密に観測することによって、その天体の座標(赤経と赤緯)を決定することができるのです。

かつて天体の精密位置観測に活躍したこの自動光電子午環の観測室は、現在は天文機器資料館として、一般に公開されています。

天体の子午線通過から時刻や座標を決定する観測は、幕府天文方の時代から行われていました。国立天文台には、明治以降西欧から輸入された子午儀が数多く残っており、天文学の根本として連綿と観測が続けられてきたことが分かります。

1982年に建設されたこの自動光電子午環は、天体の位置と運動を調べる位置天文学の研究に貢献してきました。それ以前に行われてきた眼視での観測に代わって光電マイクロメータが使用され、観測の能率と位置測定の精度が向上した自動光電子午環の観測成果は、数々の星表にまとめられ、天の川銀河の回転や太陽系天体の運動の解明など、天文学の様々な研究に役立ちました。

その後、精密位置観測は新たな観測手法に主役を譲ります。2010年代、国立天文台では、日本国内四か所のアンテナを結んでVLBI(超長基線電波干渉計)観測を行うVERAプロジェクトや、宇宙空間から観測を行う次世代の位置天文観測衛星JASMINE計画を推進して、より高い精度の観測に基づく「星の地図作り」に取り組んでいます。

文:内藤誠一郎(天文情報センター)