研究者に近い立ち位置で広報、理解を広めるということ

太陽観測科学プロジェクト 特任専門員

米谷夏樹

Natsuki Yonetani

「俺が宇宙飛行士になったら、先生と通信しよう」

もともと星を見るのが好きで。夏休みはおじいさんおばあさんの住む兵庫へ行って、満天の星を見るのが恒例でした。小中学生のころ、宇宙飛行士が国際宇宙ステーションと学校をつないで、オンラインで実験などをやる活動が始まって。「俺が宇宙飛行士になったら、先生と通信しよう」なんて、中学の理科の先生と話していました。その先生が面白くて、宇宙飛行士の次は教員になりたいと思いました。それで学芸大(東京学芸大学)へ入って天文学の研究を。でも教育実習で教員の仕事の多さ、授業以外の業務の多さを知って、思い描いたような面白い授業もできず自分は潰れていくだろうと考えるように。そこで教員免許を取りつつ、学芸員資格も取ることにしました。最初の職場は川崎市の科学館、その後、港区の科学館に。そこで自分は研究者ではないけれどその研究などを紹介する人になりたい、今よりもう少し研究者寄りの立ち位置にいたいと思ったときにちょうど、国立天文台の太陽観測の広報職、研究と広報が半々ぐらいでアウトリーチ活動もできる職種の公募が出ていると知りました。

1938年から欠かさず記録され続けている太陽

晴れている日は毎日、太陽専用の望遠鏡で観測をしています。週末はもちろん、盆・暮れ・正月もなく、数人でシフトを組んで絶やさず観測データを集めます。最も古いものでは、1888年に天文学者が手書きしたスケッチとメモが国立天文台内に残っていて、そういった古い観測記録を解読して整理するのも仕事の一つなんですが、達筆な手書きのメモを読み取るのはなかなか大変(笑)。1938年からは国立天文台の第一赤道儀室で黒点のスケッチ観測が行われていて、1998年までスケッチで残されているんですね。それは研究者向けにデータ化して保存しているのですが、今回、一般の方がスマートフォンで見られるように作り変えたんです。まだ最終チェック中で、あと1か月ぐらいで一般公開しようと考えています。(注)皆さんのお父さん、お母さんの誕生日とか、黒点がどんな様子だったかなんて見比べられるのも太陽ならではですよね。

(注)2026年8月に公開済み

細かい作業や物作りは、仕事であり趣味でもあり

国立天文台の公開日に使う展示物、模型やいろいろなグッズも自分で作っています。講演会で使うPowerPointの資料とか、幼稚園には紙芝居を作っていったことも。もともと教員や学芸員になりたかったのは、オリジナルの教材作りが好きという理由もありました。家では縫い物、編み物など裁縫全般や切り絵、折り紙、消しゴムはんことか、とにかく細かい作業、物作りをよくやっています。料理も好きで、今年はブルーベリージャムをたくさん作りました。親の影響で、小さい時から何か作ったり分解したりするのが得意で。アウトドアでは散歩も好きです。よく知らない場所を地図なしで歩いて、路地に入り込んだり面白そうな店に入ってみたり。古地図が描かれた手拭いがあるんですが、それを見ながら歩くのも楽しいですよ。江戸時代末期に村尾嘉陵(むらお・かりょう)という散歩好きの武士がいて、散策で目にしたものを書物に残しているのですが、「あぁここじゃん。ここ曲がったんだなぁ」なんてたどってみたりすることに、最近ちょっとハマっています。

SOLAR-C、そして次世代の研究者への期待

自分たちが毎日観測し続けている太陽のデータは、NICT(情報通信研究機構)が発信する宇宙天気予報などに利用されています。フレアで放出されるX線や紫外線、強力な電磁波は電子機器や通信システムに悪影響を及ぼすことがあって、それが起きてからでは手遅れ。的確に予測するには、そもそも太陽がなんでこんな爆発を起こすのか、そういう物理現象をサイエンスとしてちゃんと解明する必要があります。

そして今、2028年度以降の打ち上げを目指して新しい太陽観測衛星SOLAR-Cの開発が進んでいます。広報の仕事としてはまだリーフレットや模型を作ったり、各方面にデータ、画像の提供などを行っている段階。それから、高校の天文部や理科の教員に積極的に働きかけて、国立天文台に来てもらったり太陽の研究データを見せたりもしています。それって単に天文好きを増やすだけでなく、SOLAR-Cの運用が始まってその観測データが一般に公開され始めたときに、ちょうど大学・大学院生となった彼らが、真新しい誰も見たことないデータを使える。「君たちがそのまま星好きでいたら、最新の望遠鏡の、出てきたばかりのデータを、誰よりも早く見放題なんだよ」と。研究者の人口を増やす“青田買い”の前の種まきもせっせとやっています。

取材日:2026年7月3日/公開日:2026年9月8日
取材・文:臼田雅美/写真:長山省吾
掲載内容は取材時のもの

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