
一度宇宙を諦めた人間だから見えるもの、作れるもの
事務部 施設課
保全管理係 係員
川原以織
Iori Kawahara
裁量を任せてもらえるので仕事がしやすいです
施設課は主に敷地内のライフラインの維持管理、計画の立案、工事、修理などを行っています。身近なところでは、樹木の伐採とかスズメバチの駆除とかに始まり、大きなものでは、2024年12月に竣工したハワイ観測所岡山分室の188cm望遠鏡改修工事を手掛けました。基本的には三鷹キャンパスに常駐していますが、野辺山宇宙電波観測所や岡山分室、石垣島天文台、ハワイ観測所も管理の範囲で、今年(2025年)は10月ごろにチリ観測所への出張が控えています。
施設課のメンバーは常勤が7人いますが、それぞれ役割が違って、僕と同じ仕事を受け持つ人はほかにはいません。だから1人で動き回ることが多いですね。ある程度自分に裁量を持たせてもらっていて、そういう仕事環境はとても僕に合っています。自分でこうした方がいいとかやめた方がいいとか考えたり、あるいは研究者の方々と話をしながらどうするのが良いのか導き出したり……、僕の一存で決められるところも多いです。


航空宇宙工学、本屋のバイト、2年越しの採用面接試験
星は母の影響で興味を持ち始めて、自分でちゃんと見たのは2003年の火星大接近のとき。望遠鏡を担いで道の駅どうしまで行って見ましたよ。それから宇宙系の映画とかSFが好きになって、いつか宇宙へ行ってみたいと漠然と考えるようになりました。その後、高等専門学校の航空宇宙工学コースに入って、人工衛星の構造設計とかを。卒業研究では熱構造の解析をやりました。大学は室蘭まで行って、航空宇宙システム工学コースを選びました。ところが大学は高専と比べるとなんか違うなぁと。高専は“好きで好きで仕方がない”ようなやつが多かったんですが、大学はなんとなく学びに来ているというか……。それもあって 中退してしまって東京に戻って、とりあえず本屋さんでバイトを始めてみました。そうしたら本屋で、国立大学法人が職員募集をしていると知って、受けてみたんですよ。最初は2020年。面接まで行って落ちました。その後も本屋でバイトしながら勉強して、2021年にもう一度受けて一次試験を突破して、二次試験はどこを受けようかと思ったら、国立天文台がまた募集していて。今度は内定をいただいて、10月1日に着任しました。

積極的に人と会って、ユーザーの要望をかなえていく
休みの日はバイクに乗っている時間が長いですし、ゲームをしたり映画を見たり、自動車レースの中継もよく見ています。音楽もやっていて、バイオリンとビオラ、それとドラムとか。昔の仲間とオーケストラに参加したり、年に数回は人前で演奏することもあります。“お前は動き続けていないと死ぬのか”というぐらい、常に動いていますね(笑)。
僕はとりあえず何かいろいろやってみようという主義。大学を辞めてから本屋で働いたり、その前にも接客のバイトをやっていたり、そのときそのときの縁を大事にしていけばいいと考えています。今の仕事でも、人との会話、ヒアリングを心がけています。台内ですれ違いざまに立ち話をするなど、積極的に人と会うようにして、僕らの目線では気づかないようなことを教えてもらいます。まずは設備をどう使いたいのか、その中で国立天文台の環境に合致しているかを総合的に判断して、研究者、ユーザーの要望をかなえていくというのが常にやっていることですし、そうしていこうと意識しています。
楽しく、新しくあり続けるために。僕はインフラを整えます
2024年にすばる望遠鏡が25周年と、国立天文台の三鷹移転から100周年を迎えました。それは節目ではあるけど、あくまでも通過点なんですよね。星を見ることが人々の喜びであり続けるのと同じように、天文台も楽しく、新しくあり続けてほしい。そうであるように僕はインフラを整えます。要望は時代とともに変わってくる。そのためにまずはどう使いたいか、それに合わせてどういう設備を入れなきゃいけないのか、どういう環境を整えなきゃいけないのか。“声”を聞きながら守り、変えていきたいです。僕は宇宙を目指して一度諦めている人間。まっすぐこの道を進んで来た方と見えているものが違うと思う。そういう人間が考える天文台の設備って、きっとほかの人が作るものよりある意味、宇宙に近いんじゃないかなと。
今の職場は僕にとって最高に楽しいし、がんばっているつもりはないけどがんばれている。そこには高専の同期の存在があって、みんなすごく活躍しているんですよ。それを見ていると、あいつらに追いつきたい、負けられないと思うんですよね。

取材日:2025年7月24日/公開日:2025年9月9日
取材・文:臼田雅美/写真:長山省吾
掲載内容は取材時のもの