
ここから発信する情報を、宇宙観につながるリンクに
天文情報センター
広報普及員
内藤誠一郎
Seiichiro Naito
市民天文学「GALAXY CRUISE」の出航
天文情報センターでは国立天文台の科学コミュニケーション活動の核として、研究の成果や天体現象、暦など様々な情報の発信を行っています。その中で僕は映像や広報ブログなどの企画制作といった広報室の仕事と、定例観望会の補助や「ほしぞら情報」の執筆のような普及室の仕事を担当しています。
中でも今、最もウェイトを占めているのは市民天文学(シチズンサイエンス)「GALAXY CRUISE (注1)」の運営で、これはすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)の撮影データを使って、一般の方々に銀河の分類をしてもらうというプロジェクトです。準備段階の、科学テーマの議論や、どういう風に分類作業のフローやチュートリアルを作るかといったところから始まり、日本科学未来館の壁に巨大な銀河の写真を貼って、来場者にシートを配ってやってもらうとか、いろいろテストしました。それらを参考にウェブコンテンツを作り上げて、2019年に子供から大人まで参加できるシチズンサイエンスとしてスタート。市民の方々の分類がかなり良い精度で、価値のある分類をしてくれたおかげで、2023年10月に最初の学術論文 (注2)も出ました。

これまでの天文学の学びをベースに翻訳するという役割
天文情報センターでの仕事は多岐に渡りますが、ときにはプレスリリース用のイラストを自分で描くこともあります。表現することにずっと興味があって、絵に関してもやってみたかったのは確かですね。僕は大学院まで天文学を学んでいたので、研究者が「こういう研究をしたんです」と言った時に、論文を読ませてもらうとある程度は何をやっているかわかる。研究者が重点を置いている部分のメカニズムやプロセスや、そういうことの意味を自分自身で解釈できるので、「ここではこういうことを表現したいので、こんな感じで」といった話を研究者としやすい。外部のイラストレーターさんに制作を頼むときでも、適度に翻訳する役割でミーティングに同席することもあります。
記事や映像のシナリオを書く仕事も多いです。僕は学生の頃からずっと国立天文台と関わってきて、自分が天文台から受け取ってきた、あるいは受け取りたかったと思っているものを、誰かに受け取って欲しいという思いが強くて。文章を書くときはそんな面が出ている気がしますね。
思いは研究から伝達へ。「天文学の活性化につながる所に」
大学院生になるまでは、僕は研究者になる気しかなかったですよ。でもそれはまだ、いろいろなことが自分に入ってきて勉強してつながって楽しい、と言うフェイズだったんですね。それがやがて、研究の当事者として臨むよりも、天文学全体で今起こっていること、見ていることがどういうふうに結びついて面白みになっているか、それを社会に伝達する方が向いていそうだと。学生時代に科学技術館や国立天文台の教育普及活動に携わる中で、それができればいいなと思うようになりました。
そのころ国立天文台では「科学文化形成ユニット」という、科学イベント・科学コンテンツのプロデューサーや、科学データを映像化するクリエーターを養成する拠点作りをすることに。そのための人材を公募するということで、僕はそこに応募して採用されたわけです。天文学と言うものをすごく大事に思っている中で、社会で多くの人がそれを支持していくようであってほしいし、純粋に楽しんでもらえたらありがたい。天文学の活性化につながる所にいたいなと思っていたので、そういう意味では僕にとってとてもありがたい結節点ができたので、それは飛び込むのがベストだなと。


夜空を見上げることがどれだけ奥深いことなのか
国立天文台で仕事をしてきて良かったなぁと思うのは、何より人との出会いですね。クロスジャンル、他のジャンルとの接点っていうのが、天文情報センターの仕事では転がって来やすいのかもしれないなぁと思います。中でも2015年の「アーティスト・イン・レジデンス」は長野県の美術館とのコラボレーションで、アーティストが国立天文台野辺山に滞在して、ゼミを聞いたり、研究所を見学したり、研究者と交流したりする。そしてそのインスピレーションを制作に還元するもので、そのときに知り合った一部のアーティストの方々とは現在でも交流が続いています。
国立天文台は研究リリースだけではなく、「ほしぞら情報」のようにものすごく多くの人の日常の楽しみ、あるいは暦のように生活の中にいろいろな切り口として接触できるものを持っています。星が好きだと言う素朴なところから最先端の科学への興味まで、国立天文台の情報が届く先は広い。星を見て「きれいだね」で終わらせるのではなく、最終的に宇宙観とかにつながるリンクみたいなもの、それを見るということがどれだけ奥深いのかというところを、僕が関わる場所では事あるごとににじませていきたいなと思っています。

取材日:2024年2月27日/公開日:2024年4月19日
取材・文:臼田雅美/写真:長山省吾
掲載内容は取材時のもの