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超小型探査機が彗星の水のなぞを解明

研究成果

PROCYON探査機とチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (コンセプト画像)。オリジナルサイズ(1.7MB)

概要

国立天文台、ミシガン大学、京都産業大学、立教大学および東京大学の研究者からなる研究グループは、超小型深宇宙探査機プロキオン(PROCYON)に搭載されたライカ(LAICA)望遠鏡を用いて、2015年9月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の水素ガスを観測し、彗星核からの水分子放出率の絶対量を決定しました。

この彗星は、欧州宇宙機関ESAが進めたロゼッタ彗星探査計画の対象天体でした。探査機は彗星のごく近くにいたため、広がった彗星全体を観測することはできませんでした。またこの彗星は地球からの観測条件が悪く、我々の観測によってはじめて彗星のコマ・核モデルが検証できました。

プロキオン探査機による彗星観測は当初の探査計画では予定されていませんでした。探査機や望遠鏡の運営チームの努力により、検討開始から短期間で観測が実施され、科学的意義の大きな成果が得られました。 今回の成果は、超小型深宇宙探査機による世界初の理学成果です。また、大型の探査計画による精密な観測を低コストの計画がサポートするという理想的な形が実現され、今後の探査計画策定のモデルケースになると期待されます。

この研究成果は2017年1月24日に米国の天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』のオンライン版に掲載されました。

詳細

ロゼッタ計画とその限界点

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(正式名称:67P/Churyumov-Gerasimenko)(図1)は、欧州宇宙機関が実施した彗星探査計画(ロゼッタ計画)のターゲット天体です。ロゼッタ計画では、2015年の回帰(太陽への接近)において近日点(太陽と最も近づく場所)を含む2年以上にわたり、探査機によって彗星核近傍から精密な観測が実施されました。ロゼッタ探査機でも水分子の精密な観測が行われましたが、彗星コマ中に位置したロゼッタ探査機によるその場観測では、彗星コマの特定の領域しか観測できませんでした。

図1:チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星と東京都心との比較画像。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の直径はおよそ東京駅と浅草付近の直線距離に相当します。 オリジナルサイズ(1.0MB)

ロゼッタ探査機の観測結果からコマ全体の構造や観測できていない領域における彗星核からの水分子の放出量を推定するためには彗星コマ・彗星核モデルが必要になるのですが、近日点付近の水分子の生成率の推定値には、用いるモデルによって10倍程度の違いが生じることが報告されていました。モデルの当否を検証するには彗星コマ全体の観測から求めた水分子の生成率の絶対値と比較しなければなりませんが、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は地球からの観測条件が悪く、地上から水分子の観測は行えませんでした。そのため、別の探査機によってやや離れた位置から彗星全体を観測することが有用になりました。

従来、このような観測には太陽観測機SOHOに搭載された観測装置SWANがしばしば使われてきました。しかし今回の場合、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は背景に星が多い領域を移動しており、空間分解能が低いSWANでは彗星を背景の星と区別できす、うまく観測できませんでした。

プロキオン探査機と我々の観測

プロキオン探査機は、東京大学などが開発した、重さ約65キログラムという深宇宙探査機としては世界最小のサイズの探査機です。今回彗星を観測したライカ望遠鏡は、アポロ16号以来42年ぶりにジオコロナ(地球の周りを広く覆っている水素ガスの層)の外側からジオコロナ全体の撮影を目的として立教大学を中心に開発された、水素ガスを観測できる望遠鏡です。ライカ望遠鏡は小型でありながら、SWAN望遠鏡に比べ10倍以上空間分解能も高く、SWANでは問題となった背景の星との分離も可能です。プロキオン探査機は2014年12月、はやぶさ2の相乗り衛星として同時に打ち上げられました。

彗星コマ中の水素ガスの大部分は、彗星核から放出した水分子が太陽紫外線で壊されること(光解離)で生成されます(説明図1)。そのため、水素ガスを観測すると、彗星核からの水分子の放出量の推定が可能となります。水分子は彗星氷として最も豊富に含まれる分子であるため、彗星の活動度だけでなく、太陽系初期に形成され彗星に取り込まれた分子の形成過程に関する理解においても重要な分子です。我々はジオコロナの外側からコマ全体の水素ガスを観測し、彗星活動が最も激しい近日点付近での水分子の生成率(彗星核からの単位時間当たりの放出量)の絶対量を決定しました(図2)。この結果から彗星のコマ・核モデルが検証され、ロゼッタ探査機で決定された成分比などを元に2015年回帰全体における彗星の活動度を非常に正確に推定できました(説明図2)。

説明図1:彗星コマ中での水素原子の生成過程の模式図。彗星コマ中の水素原子の大部分は彗星核から放出した水分子からの直接生成および彗星コマ中で水分子から生成したOHから生成されます。これらの生成メカニズムを考慮することで、彗星核周囲の水素ガスの分布から彗星核からの単位時間あたりの水分子の放出量が推定できます。
図2:2015年9月13日にライカ望遠鏡で観測したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の水素原子の発光分布(上)と2次元軸対称モデルによる水素ガスコマの再現画像(下)。黄色の矢印は太陽方向を示します。
説明図2:ロゼッタ探査機のその場観測で得られた特定の領域の観測結果について、異なるモデルを介して推定した彗星核全体の水分子の放出量の模式図。彗星コマ全体の観測から求めた放出量の絶対値 (我々の観測結果)と比較することで、モデルの検証が行えます。

観測の経緯と展望

プロキオン探査機の当初の計画では彗星観測は計画されていませんでしたが、地球スイングバイによる小惑星フライバイを断念したこともあり、ジオコロナの観測終了後に急ピッチで彗星観測の検討を進めました。彗星は短期間で太陽系内を移動するため、探査機からの方向や明るさなどの観測条件は日々と変化してしまいます。ライカ望遠鏡の持つ広視野かつ高空間分解能、プロキオン探査機の持つ高度な姿勢制御性能に加え、探査機や望遠鏡の運営チームの努力のおかげで、検討開始から約4か月という短期間でチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の観測を実施でき、大きな成果を得ることに成功しました。

今回の成果は、現在各所で計画が進んでいる超小型深宇宙探査機による世界初の理学的な成果です。また、ロゼッタ計画のような10年以上の年月と巨額の資金をかけた大型の探査計画であってもあらゆる観測が行えるわけではないことから、地上や宇宙望遠鏡によるサポート観測が重要となります。今回の成果は、大型計画で実施できない重要な部分を低コストかつ短期間で開発された計画によってサポートするという理想的なサイエンスの形であったことから、今後の小型探査機での大型計画のサポート観測におけるモデルケースになると期待されます。

論文情報

Shinnaka et al. 2017 “Imaging observations of the hydrogen coma of comet 67P/Churyumov-Gerasimenko in September 2015 by the PROCYON/LAICA”
The Astronomical Journal, Volume 153, Issue 2, Article number 76 (6pp), 2017 Jan. 24

この研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(15J10864)およびNASA Planetary Atmospheres grant NNX14AG84G to the University of Michigan の補助を受けて実施されました。

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