1999年の「しし座流星群」
1999年10月7日 国立天文台・広報普及室
昨1998年11月18日の夜明け前は、大勢の人が夜空を見上げて、流れ星の出現を見守っていた。 いうまでもなく「しし座流星群」を見ていたのである。そこでは、いくつもの流れ星が空を横切 るのを見て、満足した方もあったろうし、もっとたくさんの出現を期待していて、「いくらも出 なかった」とガッカリした人もあったらしい。思いもかけず、明るい流星の跡に残る「流星痕」 を見て、感動した方もあったと聞いている。そしてまた、今年も「しし座流星群」の季節が近付 いてきた。今年の流星はどのように出現するのであろうか。 今年の状況を考える前に、その手掛かりとして、まず昨年の状況をまとめておこう。昨年の流 星出現では、流星出現数がピークになる時刻が予測とまったく食い違った。この点をはじめに取 り上げよう。 昨年のピーク時刻は、多くの人が、11月18日5時(日本時間)ころと予想していた。これは、 「しし座流星群」の母彗星であるテンペル・タットル彗星(55P/Tempel-Tuttle)の軌道面を地球 が横切る時刻である。そのため、日本を含めて東アジアが観測の適地とされ、流星観測者が、 世界から東アジアに集結した。しかし、実際のピーク時刻は、11月17日11時(日本時間)前で、 予想時刻より19時間も早かった。この時刻は、日本では昼間であったため、流星を直接見るこ とはできなかったが、電波で観測していた人は、数えきれないほどの流星エコーをキャッチし ていた。また、その時が夜であったヨーロッパでは、各地で、1時間あたり数100個の流星が見 られた。時間が経つにつれて流星数はしだいに減少し、日本で18日に見ることができた流星は、 活動終端のごく一部に過ぎなかったのである。その前夜にも流星観測をして、「17日の方が流 星数が多かった」という人もいた。 国際流星組織(International Meteor Organization;IMO)などの観測のまとめによると、17日 11時(日本時間)ころのピークの他に、18日5時(日本時間)ころに、規模は小さいながら、第2の ピークの存在が認められている。ここから、軌道面通過の際にはやはり流星数は増加したので、 第1の大きなピークは、何か別のメカニズムで生じたと考えられている。しかし、日本の眼視観 測では、18日0時ころに1時間あたり40から50個の出現があってから、だらだらと出現数は減少 し、5時ころの第2のピークははっきり認められていない。 つぎに、流星の出現数について考えよう。ヨーロッパからは、場所によっては1時間あたり 400個という報告もあったが、上記IMOのまとめでは、ピーク時の天頂修正流星数を340個とし ている。これは、実際に観測した数にして1時間あたり200個程度のものであろう。日本では、 いま述べたように、1時間あたりせいぜい50個程度の出現であった。このような状況から判断 すると、1966年にアメリカで観測されたような1時間あたり何万個という大出現が観測されな かったことだけは確かである。 以上が、昨年の「しし座流星群」出現状況のおおざっぱなまとめである。これをさらに集約 すると、つぎのようになる。 1. 流星出現のピーク時刻は、予想時刻(母彗星軌道面を通過する時刻)より19時間も早かった。 2. ピーク時の流星数は、1時間あたり200個程度であった。 このまとめを参考にして、今年1999年の「しし座流星群」の出現状況を考えてみよう。 今年地球が母彗星の軌道面を通過する時刻は、11月18日11時(日本時間)ころで、母彗星軌道 と地球との距離は0.007天文単位(107万km)である。そして、この時刻に夜であるヨーロッパが 観測適地といわれていた。これは今でもやはりひとつの有力な考え方である。しかしまた、昨 年ピーク時刻が大きく早まったことから、「軌道面通過時刻に頼るのは危険である」。「今年 もまた早まるのではないか」。などの考えが生まれるのもまた当然である。 仮に、昨年同様にピーク時刻が19時間早まったらどうなるか。この場合、ピークは17日16時 (日本時間)ころになる。日本は昼間である上に、放射点が地平線の下なので、この時刻に流星 を見ることはできず、流星が見えるまでに7時間ほど待たなければならない。この場合もっとも 観測に都合がいいのはアメリカである。「またアメリカか」と思う人があるかもしれないが、 これはあくまで「19時間早まったら」という仮定の話である。母彗星の軌道に沿って、流星の 基になる粒子が分布する「ダストチューブ」が存在するが、昨年観測した部分はすでに5天文単 位以上も遠ざかっていて、今年地球が遭遇するのはダストチューブでもまったく別の部分であ る。そこに昨年と同様に出現時刻を早める構造があるかどうかはまったくわからない。日本で 観測にもっとも都合がいい条件は、出現時刻が8時間程度早まった場合である。念のために述べ ておくと、1966年のアメリカにおける大出現のピークは、地球が母彗星の軌道面を通過する時 刻より約11時間早い。理由ははっきりわからないが、「しし座流星群」に限らずその他の流星 群でも、ピーク時刻が軌道面通過より早まる例が多い。 もうひとつ、33年前の前回の回帰との比較について述べておこう。前回の回帰の際、母彗星 のテンペル・タットル彗星は、1965年4月30日に近日点を通過した。しかし、その直後(201日後) の11月に「しし座流星群」はあまり大きな出現をせず、さらに1年経ってから1966年11月17日 (566日後)に西部アメリカで1時間あたり10万個ともいわれる大出現をした。今回の母彗星の近 日点通過は1998年2月28日であった。前回と同様に考えると、262日後の昨年よりも、628日後の 今年11月18日の方が大出現に対する条件が似ている。そこから、母彗星が回帰してから2回目の 11月の方が大出現の可能性が高く、今年のほうがたくさんの流星が見えるだろうという考え方 が生じる。 この説については、われわれはその当否を判断することができない。そうかもしれないし、 そうでないかもしれない。世界のどこかではたくさんの流星が見えるかもしれない。「今年の 方が昨年より流星数が増える」という可能性を否定するものではないが、柳の下に2匹目のど じょうがいるかいないかは「神のみぞ知る」ことである。 いろいろ述べはしたが、今年の「しし座流星群」の状況は、ピークの時刻にしても、流星出 現数にしても、「はっきりとはわからない」というのが結論である。 しかし、ただ「わからない」というだけでは身も蓋もないので、とにかくわかっていることを 中心に、以下のようにまとめておく。 1. 今年の「しし座流星群」の流星出現がもっとも多い日は、日本では11月17日から18日に かけての夜であり、17日23時(日本時間)から18日に明るくなるまでの期間、流星出現の 可能性が高い 2. その時間帯には、晴れてさえいれば、「しし座流星群」の流星は必ず出現する。通常の 観測条件なら、少なくとも1時間あたり20個程度の流星は見られるだろう。 3. それ以上の数の流星が出現する可能性もある。なかには1時間あたり何千、何万という大 出現を予想している人もいる。それを全く否定することはできないが、日本がその大出現 に遭遇する可能性は小さい。あまり過大な期待はしない方がいい。 4. 来年以降も、「しし座流星群」の流星は出現する。しかし、その出現数は年々減って、 5年もすれば、ごくわずかな数になる。 5. 32年後の母彗星が回帰するときにともなう「しし座流星群」の出現は、地球と母彗星との 軌道関係が変化し、観測条件がかなり悪くなる。まったく流星が見られなくなるわけでは ないが、大出現の可能性はほとんどなくなる。 6. 最後に申し上げるのは、「しし座流星群」の流星には明るいものが多いことである。昨年 観望をされた方はおわかりであろう。これらは都会の空でも十分に見える。特に精密な観 測をする必要がない一般の方は、無理に空の暗い所を探して遠出をすることはない。なる べく自宅の近くでご覧になることをお勧めする。
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