ルーリン彗星は、台湾にある「ルーリン天文台(鹿林天文台)」の観測から発見されました。そこで、現在は台湾の「國立中央大學 天文研究所」に所属し、以前に総合研究大学院大学の大学院生として、また日本学術振興会特別研究員として国立天文台で研究をしていた木下大輔さんに、ルーリン天文台の解説を寄稿していただきましたので、ご紹介いたします。
鹿林天文台は、台灣の國立中央大學天文研究所が運営している観測所である。台灣中部に位置し、付近には台灣の最高峰である玉山がそびえている。観測所の標高は2,862メートルで、台灣のなかでもっとも標高の高いところにある観測所である。現在、共同利用観測のための口径1mの光学望遠鏡、長期のモニター観測などに利用している口径41cm望遠鏡、四台の広視野50cm望遠鏡からなるカイパーベルト天体(太陽系外縁天体)の掩蔽サーベイのための TAOS 望遠鏡群(注1)、三台のカメラレンズを用いた広視野撮像システム LELIS (Lulin Emission Line Imaging Survey) などが運用されている。また、國立成功大學のグループがスプライトなど地球大気の現象を観測しており、さらに、行政院環境保護署と國立中央大學地球科学院の大氣科學系が鹿林山背景測站 (Lulin Atmospheric Background Station) を運用し、大気の微量成分などを測定しており、天文学以外でも重要な研究拠点となっている。
鹿林天文台の建設は、20年ほど前のサイト調査から始まる。気象条件や夜の観測条件の調査ののち、現在の場所に観測所建設が決まり、最初の研究用の望遠鏡である76cm望遠鏡は1999年1月に利用が開始された。その後、2003年に1m望遠鏡の運用が開始され、現在に至っている。1m望遠鏡は、X線連星、ガンマ線バースト、超新星、太陽系小天体など主に時間変化のある天体の観測に用いられている他、学生の実習などにも積極的に利用されている。シーイングが1.3秒角程度と東アジアでは比較的よいこと、また、柔軟な運用ができることもあり、日本の研究者にも利用されている。ガンマ線バーストの観測では東アジアの観測ネットワークのなかで重要な拠点となっているし、日本の次期太陽系小天体探査計画においては候補天体探しや候補天体の物理的な特性を明らかにする観測が行われている。現在、鹿林天文台では、新たな口径2mの望遠鏡の建設が行われている。この2m望遠鏡は、「Pan-STARRS(注2)計画」と連携した観測のためのものであり、2011年初めの運用開始を目標に建設が進められている。「Pan-STARRS計画」とは、ハワイ・マウイ島のハレアカラ山頂に設置された1.8m広視野望遠鏡により全天の75%の領域を定期的に監視するユニークな研究計画である。可視光領域において、5色のフィルターを用い、典型的に一週間に一度の頻度で夜空の同じ領域を観測する。これにより、時間変動を伴う天体現象の研究にこれまでにない新たなデータを提供する。台灣では、國立中央大學を中心とした大學連合を組織し、Pan-STARRS計画に加わっている。ハワイの1.8m望遠鏡で発見した興味深い天体を、即座に鹿林の2m望遠鏡で追跡観測し、天体の素性を明らかにすることが新望遠鏡の目的である。また、長期の監視観測も鹿林の2m望遠鏡で行うことが予定されている。このように、鹿林天文台では時間軸に着目した天文学を行っている。
注1:TAOSとは、Taiwanese-American Occultation Survey の略
注2:Pan-STARRSとは、Panoramic Survey Telescope & Rapid Response System の略
鹿林彗星は、2007年7月11日に41cm望遠鏡により発見された。鹿林天文台では41cm望遠鏡を用いた小惑星サーベイが行われており、リモート観測、観測データの自動処理、移動天体の検出および位置の報告などの手法を確立することがこのプロジェクトの目的である。鹿林彗星は明るさ19等の小惑星として発見が報告されたのち、数日後に彗星活動が認められ、C/2007 N3という彗星の仮符号が与えられた。これは、台灣国内の観測施設で発見された最初の彗星である。現在、日本との間でも鹿林彗星の共同観測が進められており、國立中央大學天文研究所では、これをはずみに観測天文学を発展させたいと考えている。
この稿の(固有名称の)漢字表記については、木下氏の原稿のままとしています。