木星面の模様などにつきまして、さらに詳しく解説します。
木星の表面は、アンモニアやメタンでできた雲で覆われています。私たちが木星を見るときに見える木星面の模様は、すべてこの雲の模様です。
木星は約10時間で一回転という、とても速いスピードで自転しています。このため、東西方向に強い力が生じ、東西方向に流れる風が発達します。この方向に雲が並ぶため、縞(しま)模様と呼ばれる模様が見られます。
このうち、暗くて黒っぽい部分を縞(しま:ベルト)と呼びます。また反対に明るくて白っぽい部分を帯(おび:ゾーン)と呼びます。木星面は、図のように多くの縞と帯で覆われています。
木星面でとくに目立つのは2本の縞です。それぞれ北赤道縞と南赤道縞と呼んでいます。
※なお、右の図に使用した画像は、今回の中継で使用する50cm望遠鏡で撮影したものです。シーイング(後述)が大変良いときに撮影した画像を重ね合わせて処理した画像で、細部までよく映っていますが、今回の中継では木星の高度が低く、地球大気の影響を大きく受けるため、この図のようには見られません。あらかじめご了承ください。
大赤斑(上図参照)は、巨大な渦巻き型の赤っぽい斑点模様で、木星面で最も有名な模様です。一説には1600年代以来約350年間、少なくとも1830年頃以来約170年間は存続している模様です。南熱帯に位置する模様ですが、南赤道縞に食い込んしまっています。
赤い模様とされる大赤斑ですが、その赤さは年によって変化します。近年は白っぽく見えることが多く、あまりはっきりとは見られません。ただ、南赤道縞が淡化(後述)すると、大赤斑自体は濃くなる傾向にあります。今回の中継では、9日は後半の時間帯、10日は中継開始直後に見られる予定ですが、果たしてどのように見えるでしょうか。ぜひ確かめてみてください(シーイングによっては、見えないことがあります)。
木星を望遠鏡で見ると、北赤道縞と南赤道縞の2本の縞模様が目立ちます。しかし南赤道縞はいつも濃く見えているわけではありません。年によっては淡化してしまい、縞の状態ではなく、まるで帯のように白っぽく見えることがあります。
今年は、1991年以来16年ぶりにこの現象が見られました。4月頃からゆっくりと淡化してきたようです。
現在もこの傾向は続いており、見る場所によっては、一見すると縞が一本(北赤道縞)だけになってしまったかのようです。
前項で、本来暗い縞である南赤道縞が淡化してしまうことについて説明しました。この淡化が起きてしばらくすると、今度は南赤道縞攪乱という現象が起こります。これは、暗い模様が次々と出現したり、暗い部分が気流に乗って伸びていったりすることで、南赤道縞が暗い縞模様へと戻っていく現象です。
一般的には、南赤道縞が淡化してしばらくした後に、突如として起こる現象です。しかし、今年の場合は、南赤道縞の淡化が起こっている最中の5月に、この現象が始まりました。現在の南赤道縞は、一部がこの攪乱現象によって暗く見え、一部はまだ淡化した状態となっています。今回の中継では、9日と10日で別の部分が見えるため、違う様子が確認できるかもしれません。ぜひご注目ください。
望遠鏡で拡大して観察すると、地球の大気のゆらぎの影響で、天体像もゆらいでしまったり、ぼけて見えてしまったりします。この見え方の度合いを、シーイングと呼びます。風が強い日であったり、あるいは地平線近くに天体があるときには、シーイングが悪くなり、天体像がまるで川底の石を見るようにゆらいでしまいます。
今回の中継では、木星がやや低い空にありますので、シーイングが悪くなる可能性が高いと言えます。この影響が強いと、大赤斑などのはっきりした模様も見えなくなるかもしれません。
木星は、太陽のまわりを約12年かけて一周(公転)します。1年で太陽のまわりをまわる地球とは、約13カ月(1年1カ月)ごとに、位置関係が同じ状態になります。このため、地球から見た木星の観察(観測)可能な時期も、約13カ月ごとにおとずれます。観測に適した時期を、便宜的に木星の観察(観測)シーズンと呼ぶことがあります。
地球と木星の位置関係で、地球−太陽−木星がほぼ一直線に並ぶときを、合(ごう)と呼びます。このときには、地球から見た木星の位置が太陽と同じ方向になります。このため、木星は昼間しか見ることができず、観察できません。
合の後1〜2カ月すると、木星は明け方の東の空に見えるようになります。木星の観察シーズンはここから始まります。前回の木星の合は2006年11月22日で、約1カ月後の12月末から木星が見えるようになりましたので、今回の観察シーズンは2006年12月に始まったことになります。
一方で、木星−地球−太陽とならぶことを、衝(しょう)と呼びます。このときには、地球から見た木星の位置は、太陽のちょうど反対側となり、夜中じゅう観察できるうえ、地球から木星までの距離が短く、観測の好期となります。今年は6月6日が木星の衝でした。
衝の後、木星は徐々に夕方の空で見えるようになります。そして再び合となる約1〜2カ月前、木星は夕空の低空にしか見られなくなり、観察シーズンが終わります。次の木星の合は2007年12月23日で、今年は11月上旬までが観察シーズンとなります。