水星は、太陽に最も近いところを公転しています。このため、見かけ上、太陽からあまり離れない位置を移動します。したがって、夕方太陽が沈んだすぐ後か、または明け方太陽が上る直前にしか、見るチャンスがありません。
では、水星が見やすくなる条件とは、どんな場合なのでしょうか。一般的に見るチャンスの多い夕方の場合について解説します。
地球から見て、見かけ上、水星が最も太陽から離れて見えることを「最大離角」と言います。水星が太陽の東側に離れるときが「東方最大離角」、西側に離れるときが「西方最大離角」です。夕方の西空で見やすくなるのは「東方最大離角」のときです。
しかし、このときの「離角」は、一定ではありません。地球はほぼ円軌道を描いて太陽のまわりを公転していますが、水星はややいびつな楕円軌道を描くからです。このため、8月に起こる東方最大離角では、水星が太陽から約27度離れますが、2月に起こる東方最大離角では、約18度しか離れないことになります。
では、8月に東方最大離角となるときに水星が最も見やすくなるかと言うと、そうではありません。次の項で述べる「黄道と地平線とがなす角度」が関係してくるからです。
天球(空)で、太陽が移動していく道すじを「黄道(こうどう)」と言います。また惑星も、ほぼこの黄道に沿って移動します。水星も同様です。実は、季節によってこの黄道と地平線のなす角度が変化するのです。
北半球の日本では、夕方の西空の場合、3月に黄道が最も「立って」見えます。逆に9月には、黄道が最も「寝て」しまいます。もし水星が、太陽から同じ角度だけ離れていたとすると、3月のときは黄道が立っていますから、地平線からの高度が高くなり、観望しやすくなります。一方9月のときは、黄道が寝ていますから、地平線からの高度はあまり高くならず観望には向いていないことになります。
まず一番目の条件では、水星と太陽との離角(東方最大離角のとき)が大きくなるのは8月でした。しかし、二番目の条件の黄道の角度は、8月の場合(9月に近いため)寝てしまっています。この相反する2つの条件を詳しく検討した結果、5月上旬〜6月上旬頃に東方最大離角となるとき、水星の地平高度が高くなり、夕方の空で観望しやすくなることがわかりました。
今年の水星は、6月2日に東方最大離角となりますので、夕方の空で大変条件よく観望できることになります。
東京において、日の入り時の水星が最も高くなる日とその地平線からの高度を次の表にまとめました(2000年〜2015年)。また合わせて、その日における金星の高度も表示してあります。
日付 | 日の入り時の 水星の高度 | 日の入り時の 金星の高度 | 日付 | 日の入り時の 水星の高度 | 日の入り時の 金星の高度 |
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2000年6月6日 | 19.9度 | 見えず | 2008年5月13日 | 20.1度 | 見えず |
2001年5月20日 | 20.3度 | 見えず | 2009年4月26日 | 19.5度 | 見えず |
2002年5月3日 | 19.8度 | 24.5度 | 2010年4月9日 | 18.6度 | 19.9度 |
2003年4月16日 | 19.0度 | 見えず | 2011年3月23日 | 17.9度 | 見えず |
2004年3月29日 | 18.2度 | 44.8度 | 2012年6月25日 | 18.5度 | 見えず |
2005年7月2日 | 17.8度 | 17.8度 | 2013年6月9日 | 19.8度 | 15.5度 |
2006年6月16日 | 19.3度 | 見えず | 2014年5月23日 | 20.3度 | 見えず |
2007年5月31日 | 20.2度 | 38.6度 | 2015年5月6日 | 19.9度 | 39.9度 |
今年は5月31日に、日の入り時の高度が20度を超え、非常に条件が良いことがわかります。また金星も約39度と、大変条件よく見られます。このように水星が好条件(日の入り時の地平高度が19度以上)で、かつ金星も見えるというのは、2002年以来5年ぶりのこととなります。また次回は6年後の2013年となります。
金星はとても明るく、日の入り直後のまだ明るい空でも見つけやすい惑星です。したがって、金星がいっしょに西空に見えるときは、水星をさがすときの良い目印となるのです。
このように5年ぶりの好条件となる今年、ぜひみなさんに水星と金星を見て頂きたいと思います。