アストロ・トピックス

No.532: アンドロメダ銀河に矮小銀河合体による銀河形成の名残を発見

 東北大学、東京大学、国立天文台、カリフォルニア大学などの研究者からな
る国際研究チーム (注) は、すばる望遠鏡を用いた観測で、アンドロメダ銀河
のハロー (銀河円盤を囲む領域) に、かつての矮小銀河 (わいしょうぎんが) 
合体の名残と思われる恒星の集団「恒星ストリーム」を発見しました。さらに
ケック望遠鏡による分光観測で、その恒星ストリームの詳しい空間構造と速度
分布を明らかにすることに成功しました。

 銀河系やアンドロメダ銀河といった渦巻銀河のハローには、100億歳を超え
るような古い年齢の恒星が、銀河円盤を囲むように広く分布しています。これ
らの恒星は、銀河の形成と進化過程に対してたいへん重要な情報を提供するも
のと考えられています。特に、現在の標準的な銀河形成理論では、銀河系をは
じめとする大きな銀河は、矮小銀河のような小さな銀河が合体したり、潮汐 (
ちょうせき) 力で壊れたりする過程を通して現在の姿になったとされており、
ハローにはこういった出来事の名残が多く残っていると考えられています。
 このような過去の合体過程の形跡は、「恒星ストリーム」と呼ばれる恒星の
集団として観測的にとらえることができます。恒星ストリームは、小さな銀河
が大きな銀河へと落ち込みながら軌道運動する際、潮汐力によって長く引き延
ばされたためにできた恒星の集団で、恒星ストリームを成す個々の恒星は、同
じような速度で集団運動することが知られています。
 ハローに恒星ストリームが存在すると、それは、恒星の非一様な空間分布と
して現れます。このような恒星の非一様空間分布を見付けるには、銀河系より
もアンドロメダ銀河が適しています。なぜなら、アンドロメダ銀河は、我々か
らは円盤をやや横から見るような向きとなるので、ハロー部分を観測しやす
く、しかも銀河の外から見ることができるため、様々な恒星の分布を直接観測
することができるからです。

 このような観点から、東北大学の田中幹人 (たなかみきと) 研究員 (観測当
時は東京大学博士課程大学院生) を代表とするチームは、すばる望遠鏡の主焦
点カメラを用いて、アンドロメダ銀河ハローの広い領域を、VとIの2バンドで 
測光観測しました。
 アンドロメダ銀河は銀河系から最も近い渦巻銀河で、距離は約250万光年で
す。そのため見掛けの広がりがとても大きく、視野が広いすばる望遠鏡の主焦
点カメラを用いても、ハロー全体を測光観測するには膨大な時間を要します。
そこで、研究チームでは、恒星分布を解析しやすい場所のいくつかを観測し、
これまで観測されていなかった領域に、明らかに恒星の空間密度が高い2つの
構造 (ストリームE、F) を発見しました。また、後に他の共同研究者の観測結
果と組み合わせた結果、別の観測領域にもストリームSWという比較的薄い構造
が存在 することを明らかにしました。

 さらに、本チームの共同研究者であるP. Guhathakurta教授 (カリフォルニ
ア大学サンタクルツ校) を代表とするチームは、ケック望遠鏡の多天体分光装
置を用いて、すばる望遠鏡で発見したストリーム構造を構成する個々の恒星の
分光観測を行いました。分光観測から得られたスペクトルからは、ドップラー
効果による恒星の視線速度が分かります。これにより、アンドロメダ銀河のハ
ロー 内にある一般星の運動や、その手前に重なって見える銀河系内の恒星の
運動を区別して解析することができます。
 その結果、ストリーム構造が見えた領域では、確かに恒星が集団で同じよう
な運動をしていることがわかりました。これは、まさに矮小銀河が潮汐力で破
壊されて引き延ばされたときに期待される空間運動です。すなわち、標準的な
銀河形成論で予測される、矮小銀河の合体過程による大質量銀河の形成のシナ
リオを裏付ける証拠を得たことになります。
 田中幹人研究員は、「ハローのもっと広い領域の観測をさらに進めることに
よって、大きな銀河の形成にどのような質量の矮小銀河が、それぞれどのぐら
いの割合でかかわっていたのかといった、銀河形成過程において重要な問題を
解明することが目標になります」と話しています。

 この研究成果のうち、すばる望遠鏡の主焦点カメラによる恒星ストリームの
発見は、2010年1月7日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・
ジャーナル」708号に掲載されました。
 一方、ケック望遠鏡による分光観測の結果は、2010年1月7日に米国の首都ワ
シントンで行われた第215回アメリカ天文学会で記者会見講演に選ばれ、報告
されました。

注:田中幹人 (東北大学/東京大学)、千葉柾司 (東北大学)、小宮山裕 (国立
天文台)、家正則 (国立天文台)、Puragra Guhathakurta (カリフォルニア大学
サンタクルツ校)、 Jason S. Kalirai (NASA宇宙望遠鏡科学研究所)、その
他、カリフォルニア大学アーヴィン校、ヴァージニア大学、マサチューセッツ
大学、エール大学、ワシントン大学、コロンビア大学、カリフォルニア工科大
学の研究者からなるチーム。

参照:

 アンドロメダ銀河ハローに新しい恒星ストリームを発見~矮小銀河合体によ
る銀河形成の痕跡~
   (国立天文台ハワイ観測所・すばる望遠鏡)
   http://www.naoj.org/Pressrelease/2010/01/15/j_index.html

 カリフォルニア大学サンタクルツ校における本研究成果のプレスリリース (
英語)
  http://www.ucsc.edu/news_events/text.asp?pid=3462

 "Structure and Population of the Andromeda Stellar Halo from a 
Subaru/Suprime-Cam Survey"
  Tanaka M., Chiba M., Komiyama Y., Guhathakurta P., Kalirai J. S., 
Iye M., 2010 ApJ 708, 1168

 "The SPLASH Survey: Spectroscopy of Newly Discovered Tidal Streams 
in the Outer Halo of the Andromeda Galaxy"
  Guhathakurta P., Beaton R., Bullock J., Chiba M., Fardal M., Geha 
M., Gilbert K., Howley K., Iye M., Johnston K., Kalirai J., Kirby E., 
Komiyama Y., Majewski S., Patterson R., Tanaka M., Tollerud E., SPLASH
 collaboration, January 7, 2010, the 215th meeting of the American 
Astronomical Society

 

      2010年1月28日            国立天文台・広報室