アストロ・トピックス
No.500: 太陽系の近くに潜んでいた初期宇宙の星の生き残り~そこに刻まれた超新星の記録~
私たちの銀河系の中では、星は生まれては死に、また新たな星が生まれてく るというサイクルが続いています。太陽が生まれたのは46億年前とされます が、それまでに何十億年もの間、無数の星が生涯を終えて宇宙空間に消えて いったことになります。 しかし、太陽よりも少し軽い星なら、その寿命は100億年以上となり、宇宙 初期に誕生した星でも現在まで生き残ることができます。こういう星には、重 元素がほとんど含まれないという特徴があります。宇宙における物質の歴史と して、ビッグバン時に作られたのは水素とヘリウムのみで、それ以外の元素 ( まとめて「重元素」と呼びます) のほとんどは、星の中で作られてきたことが わかっています。逆に、重元素をわずかしか含まない星が見付かると、ビッグ バンから間もない宇宙初期の星の生き残りと解釈されています。 銀河系にもこのような重元素の少ない星が見付かっています。これまでに知 られている中で最も重元素の含有量の少ない星は、2005年にすばる望遠鏡で発 見された星 (HE1327-2326) でした。こういった星は、宇宙初代の星の形成や 元素合成に貴重な情報をもたらしてくれるもので、精力的に探査が行われてい ます。最近では15等級よりも暗い星についても、詳しい観測がなされるように なってきています。 しかし、総合研究大学院大学の伊藤紘子 (いとうひろこ) 大学院生や、国立 天文台の青木和光 (あおきわこう) 助教らのチームの研究で、9等級というご く明るい星ながら、重元素の組成が太陽の5000分の1しかない星が見付かりま した。この星はわずか600光年ほどの距離にある星です。銀河系が10万光年以 上に広がっていることを考えると、太陽系のごく近くに、初期宇宙の化石のよ うな星が存在していたことになります。 この明るい星をすばる望遠鏡で観測することにより、この種の星としてはか つてない精度の分光データを得ることが可能となり、高い精度で星の化学組成 が測定されました。その結果、2005年にすばる望遠鏡で発見された星 HE1327-2326 と同様に、この星も、重元素の含有量が少ないだけでなく炭素が 相対的に過剰であることがわかりました。また、この星のような特徴的な組成 を説明できるのは、今のところ重元素である鉄をわずかしか作らない特殊な超 新星以外に無いことも示されました。つまり、宇宙の初代星として生まれた大 質量星のうち、少なくとも一部はこのような特殊な超新星として爆発し、その 放出物質を取り込んだガス雲から生まれてきた星が、今回の星のように現在観 測されているのだと考えられます。この結果は、宇宙初代の星による元素合成 の理解を一歩進めるものです。 この研究成果は、2009年6月発行の米国の天体物理学専門誌 「アストロフィ ジカル・ジャーナル」に掲載されました。 参照: 観測成果 (すばる望遠鏡) http://www.naoj.org/Pressrelease/j_index_2009.html#090820 "BD+44°493: A Ninth Magnitude Messenger from the Early Universe; Carbon Enhanced and Beryllium Poor" Ito H., Aoki W., Honda S., Beers T. C., 2009, ApJ 698, L37 2009年8月21日 国立天文台・広報室