アストロ・トピックス
No.499: 板垣さん、へびつかい座に新星を発見 ~高校生たちが世界で最初の分光観測に成功~
山形県山形市の板垣公一 (いたがきこういち) さんは、8月16日 (世界時、 以下同じ) の観測から、へびつかい座に10.0等の新星らしき天体を発見しまし た。この天体は口径21センチメートル反射望遠鏡 (f/3) を用いたCCD観測 (限 界等級15等) により撮影された複数枚の画像から発見されました。 この発見は、中野主一 (なかのしゅいち) さんと九州大学の山岡均 (やまお かひとし) さんを通じて国際天文学連合電報中央局に報告されました。 この天体の発見日時、位置、発見等級は次の通り。 発見日時 2009年8月16.515日 = 8月16日12時22分 (世界時) 赤経 17時 38分 19.68秒 赤緯 -26度 44分 14.0秒 (2000年分点) 発見等級 10.0等 板垣さんは、2008年6月10日に21センチメートル反射望遠鏡を用いてこの場 所を撮影していましたが、この時の画像 (極限等級15等) にも、DSS (注) 画 像にもこの天体は写っていませんでした。また山岡さんは、2009年8月14日に ASAS-3 (All Sky Automated Survey:全天自動捜索) で撮られた画像には、約 14.0等よりも明るい天体がなかったことを報告しています。 板垣さんは、発見当日の16日に、口径60センチメートル反射望遠鏡 (f/5.7) で確認観測 (限界等級18.5等) を行い、この天体が10.1等で写っていること を確認しています。また、埼玉県上尾市の門田健一 (かどたけんいち) さん は、同じく16日に25センチメートル反射望遠鏡 (f/5) を用いてこの天体を観 測し、10.2等であることを確認しました。さらに板垣さんは、この天体が8月 17日には11.1等ほどに減光していると報告しています。 また、美星天文台 (岡山県井原市) の綾仁一哉 (あやにかずや) さんらは、 同天文台で開催中の「星の学校2009」におけるこの天体の分光観測の結果を報 告しています。星の学校は、岡山県内の高校生たちが、同天文台の101センチ メートル望遠鏡などを用いて恒星などの観測を行い、取得したデータを解析し て結果を考察する体験学習イベントです。この学習中に板垣さんの新星らしき 天体発見の情報を知った岡山県立操山高等学校と岡山県立岡山一宮高等学校の 高校生3名が、この天体の分光観測を行いました。その結果、取得したスペク トルが新星の特徴を示していることが判明し、この観測結果は国際天文学連合 電報中央局に報告されました。この報告は、この天体の分光観測の情報を示す 世界で最初のものとなりました。 高校生が実際に大型望遠鏡を用いて天体観測を体験する機会は少なく、今回 のように「星の学校」の開催中に新星が出現したことは稀有なことです。これ を実体験した高校生たちにとっては、大きな自信となりよい思い出となること でしょう。この体験を今後に生かしていただけたらと思います。 なお、板垣さんは、超新星などの発見で活躍中のアマチュア天文家です。新 星の発見については、昨年2008年9月にわし座に出現した14.0等の新星以来の2 個目の発見となりました。今後のさらなる活躍を期待します。 注:DSS (Digitized Sky Survey) は、米国にあるパロマー天文台のサミュエ ル・オシン・シュミット望遠鏡と、オーストラリアにあるアングロ・オースト ラリア天文台の英国シュミット望遠鏡を用いて、全天を撮影し、デジタル化し たもの。限界等級の値は天域によって変わるが、平均的には20等級前後の天体 まで写っている。 参照: CBET No. 1910 : NOVA OPHIUCHI 2009 (2009 Aug 17) CBET No. 1911 : NOVA OPHIUCHI 2009 (2009 Aug 17) VSOLJ ニュース (219) : 日本変光星観測者連盟 へびつかい座の新星を高校生が即時分光観測 (2009年8月18日) 国立天文台 アストロ・トピックス (415) 板垣さん、わし座に新星らしき天体を発見 http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000415.html 2009年8月19日 国立天文台・広報室