アストロ・トピックス

No.471: 太陽観測衛星「ひので」が恒常的に発生する彩層ジェット現象を発見

 太陽黒点にときどき発生する「ライトブリッジ」と呼ばれる構造において、
1日以上も続いてジェットが噴出していることを、太陽観測衛星「ひので」に
搭載された可視光・磁場望遠鏡を用いて、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の清
水敏文 (しみずとしふみ) 准教授らが発見しました。
 太陽表面には周辺に比べて温度が低いために暗く見える場所があり、それを
黒点と呼んでいます。そこは、太陽内部から浮き上がってきた磁力線の束が太
陽表面に現れたところだと考えられています。太陽黒点の特に暗い部分 (暗
部) にはたびたび「ライトブリッジ」と呼ばれる明るい割れ目が現われ、そこ
から黒点が粉々になっていくことがあります。これは黒点の磁束が分裂・崩壊
する過程を理解する上で注目される構造です。太陽観測衛星「ひので」は、こ
のライトブリッジの活動性を詳細に観測することに成功しました。
 この観測により、ライトブリッジから秒速30-200キロメートルに達する
ジェット状のガス噴出が、間欠的に約1日半近くもの長時間にわたり発生して
いることがわかりました。通常太陽でのジェット現象は数分から数十分の短時
間しか続かないため、このジェットは極めて変則的な現象です。  詳細な解
析により、ライトブリッジに沿って非常に強い電流が存在していることが判明
しました。これはらせん状に強くねじれた磁束管がライトブリッジ部分に浮上
し、直立した強い黒点磁場の下にトラップされていることを示唆しています。

 ジェットの発生には、向きの異なる磁力線がつなぎ替わること (「磁気リコ
ネクション」) で得られる爆発的なエネルギーが必要だと考えられています。
らせん状に強くねじれた磁力線とまっすぐな磁力線との間では、磁力線のつな
ぎ替えが起きても、つなぎ替えの原因となる反対向きの磁力線はその周辺に残
ります。これがジェットを長時間維持するしくみだと考えられます。
 この新しい観測は、らせん状にねじれた磁場が太陽面下から浮かび上がって
くる様子を解明することが、太陽大気でのダイナミックな爆発現象の発生を理
解する上で重要であることを明確に示しています。また、太陽観測衛星「ひの
で」の登場によって可能になったライトブリッジに対する精密な磁場計測や解
析が、天体プラズマの磁気リコネクションの振る舞いや役割の理解を進めるも
のと期待されます。
 本研究成果は、2009年5月1日発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィ
ジカル・ジャーナル」に掲載されました。
 
参照:
 "Hinode observation of the magnetic fields in a sunspot light bridge

  accompanied by long-lasting chromospheric plasma ejections"
   Shimizu T., Katsukawa Y., Kubo M., Lites B.W., Ichimoto K., 
   Suematsu Y., Tsuneta S., Nagata S., Shine R.A., Tarbell T.D., 
   2009, ApJ 696, L66
 「ひので」:恒常的に発生する彩層ジェット現象を発見
  (国立天文台 ひので科学プロジェクト)
   http://hinode.nao.ac.jp/news/090513Release/
 太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)
  (宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)
  http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hinode/index.shtml
 国立天文台 ひので科学プロジェクト
  http://hinode.nao.ac.jp/
 
      2009年5月19日            国立天文台・広報室