アストロ・トピックス
No.443: 月の極域で太陽光が当たる日数が判明~「かぐや」搭載レーザ高度計による観測の成果~
日本の月周回衛星「かぐや (SELENE) 」で取得されたデータの解析の結果、 月面で最大の日照率 (1年のうち太陽光が当たる日数の割合) は北の極域で89 パーセント、南の極域で86パーセントであり、永久日照地域がないことがはじ めて明らかになりました。 地球の極域で白夜と極夜があるように、月の極域でも半年ごとに白夜と極夜 の季節が訪れます。長い長い昼と長い長い夜が、交互に半年間も続くのです。 地球と少し事情が違うのは、地球の自転軸が黄道面 (太陽の軌道面) から23.4 度傾いているのに対し、月の自転軸は1.5度しか傾いていない点です。月の自 転軸の傾きは小さいので、高い山の上などには常に日が差す場所 (永久日照地 域) があると考えられてきました。このような場所は温度変化が小さく、また 太陽光エネルギーを得やすいことから、将来の月面基地の有力な候補地となり ます。一方で、深いクレーターの底などには常に日が差さない場所 (永久影) があるとも考えられてきました。永久影では低温状態が保たれているため、古 い氷 (H_2O、注1) が存在している可能性が指摘されています。これらの氷 は、太陽系の歴史を知る上で重要な手がかりになるとともに、月面での水資源 として利用できる可能性があります。 国立天文台RISE月探査プロジェクト (注2) の研究者は、かぐやに搭載され ているレーザ高度計で取得された地形データを用いて、月の極域 (北緯85度以 北と南緯85度以南) に、太陽光が1年のうちに何日当たるかを調べてみまし た。その結果、解析に用いた空間分解能 (分解し得る最小の間隔:北緯85度 およそ緯度、経度方向それぞれ500メートルの領域に相当) では永久日照地域 は存在せず、最大の日照率は北極域では1年365日のうち324日分に相当する89 パーセント、南では同じく314日分に相当する86パーセントであることがわか りました。一方、永久影については予測通り、確かに存在することもわかりま した。 これまでにも写真や地上レーダ観測から月の極域の地形データはありました が、その地形図は極域全体を網羅したものではなく、かつ、精度が悪いもので した。今回の成果は、かぐやのレーザ高度計によって、世界で初めて月の両極 域での詳細な3次元地形データが得られたことでもたらされたものと言えるで しょう。 本研究は、2008年12月30日発行の米国地球物理学専門誌に掲載されました。 注1:文中の「H_2O」という記述の「_」部分は、「2」が下付文字であること を表しています。 注2:RISEは、Research in Selenodesy の略称。Selenodesy は測月学のこ と。地球上の測地学 (地球の形や重力、その変動を研究する学問) を月に応用 したもの。国立天文台 RISE 月探査プロジェクトは、かぐやプロジェクトの一 部を担い、月の重力場や地形を詳細に調査し、月の起源と進化の解明を目指 す。 参照: RISE月探査プロジェクト (国立天文台) http://risewww.mtk.nao.ac.jp/ 「かぐや (SELENE) 」 (宇宙航空研究開発機構) http://www.kaguya.jaxa.jp/ 国立天文台 アストロ・トピックス (331) 月周回衛星「かぐや」打ち上げ成功 http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000331.html 国立天文台 アストロ・トピックス (374) 月周回衛星「かぐや (SELENE) 」のレーザ高度計による 月全球観測データを用いた地形図の公開について http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000374.html 2009年1月30日 国立天文台・広報室