アストロ・トピックス
No.386: すばる望遠鏡、超新星残骸カシオペヤAの「こだま」を解読
マックスプランク天文学研究所 (ドイツ)、国立天文台などからなる研究 チーム (注1) は、すばる望遠鏡を用い、超新星残骸「カシオペヤA」の周辺に 確認された超新星爆発当時の光の「こだま」の分光観測に成功しました。その 結果、 カシオペヤAのもととなった星の正体を明らかにしました。過去に発せ られた光の「こだま」は非常に暗く微かなものですが、すばる望遠鏡の集光力 を生かして観測し、それを解析した結果、カシオペヤAの起源に初めて迫るこ とができたのです。 超新星残骸「カシオペヤA」は、我々の銀河系の中では比較的新しい超新星 爆発の残骸だと考えられています(注2)。我々の銀河系内で起こる超新星爆発 は肉眼でも観察可能な明るさであることから、各国の歴史的文献にその詳しい 記述が残されていることが多いにも関わらず、このカシオペヤAのもとになる 超新星爆発についてはほとんど記録がありません。超新星残骸の膨張速度から 逆算した結果から、1680年頃に超新星爆発が起こったと推定されてはいるもの の、その正確な時期や、どのような種類の超新星爆発だったのかは正確には明 らかにされていませんでした。また、なぜ当時の人々による目撃記録がなかっ たのかも、大きな謎のひとつでした。 2005年のスピッツァー宇宙望遠鏡を使った観測で、カシオペヤAの周辺に高 速で外側に移動する赤外線源が見つかりました。超新星爆発を起こした天体の 周辺にある塵が、爆発時に放射された紫外線や可視光線によって温められた結 果、再放射された赤外線が伝播していく現象が観測されたのです。このような 場所では、この塵によって反射された可視光線が淡いながらも観測できるはず です。これは、いわば音の「こだま」のように、超新星爆発当時の可視光線が 遅れて観測者のもとに届いたものと考えることができます。この、爆発から約 300年たって届いたカシオペヤAからの可視光線の「こだま」を観測し解読する ことで、超新星爆発が起こった当時のようすを知ることができるのです。 研究グループは、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 (FOCAS) を用い て、可視光線の「こだま」の分光観測を行いました。この「こだま」は非常に 淡く、口径8メートルのすばる望遠鏡の集光力をもってしても困難なものでし たが、5時間を超える長い観測の末、その「こだま」のスペクトルを得ること に成功しました。こうして得られたスペクトルから、カシオペヤAは、赤色超 巨星がIIb型の超新星爆発を起こした結果生じたものであることが明らかにな りました。 IIb型超新星爆発は、進化の進んだ大質量星の表面 (外層) が、そのまわり を回る伴星によってはぎ取られてしまった状態で重力崩壊型の超新星爆発を起 こしたものと考えられています。外層が残ったまま爆発する場合に比べると、 爆発後短期間で暗くなるという特徴があります。そのため、肉眼で確認できる 期間が短く、それが当時の観測記録が存在しない理由のひとつではないかと推 測されます。 カシオペヤAの生い立ちについては数々の論争がありましたが、それもよう やくここで終止符が打たれることになりました。 この研究成果は、5月30日発行の米国の科学雑誌「サイエンス」に掲載され ました。 注1:主な研究メンバー Oliver Krause (オリヴァー・クラオゼ、マックスプランク天文学研究所・研究員) 後藤美和 (ごとうみわ、マックスプランク天文学研究所・研究員) 臼田知史 (うすだとものり、国立天文台ハワイ観測所・准教授) 服部尭 (はっとりたかし、国立天文台ハワイ観測所・研究員) ほか 注2:2008年5月に、チャンドラX線天文台によって140年前に起きた超新星爆 発の残骸が発見されるまで、カシオペヤAは銀河系で最も新しい超新星残骸と 考えられていました。 参照: "The Cassiopeia A Supernova was of Type IIb" Krause O., Birkmann S. M., Usuda T., Hattori T., Goto M., Rieke G. H., Misselt K. A., 2008, Science 320, 1195 すばる望遠鏡ホームページ 300 年の時を経て明かされた超新星の正体? 超新星残骸カシオペヤ A の可視光の「こだま」を解読~ http://subarutelescope.org/Pressrelease/2008/05/29/j_index.html 2008年6月4日 国立天文台・広報室