アストロ・トピックス

No.303: 超新星 2006jc と2年前の増光 ~大質量星の終末に起きた2種類の爆発~

 超新星 2006jc は昨年10月、星の一生の最終段階に起こる大爆発を起こし、
山形県山形市のアマチュア天文家、板垣公一 (いたがきこういち) さんによっ
て発見された天体です (参照:アストロ・トピックス (247) )。しかし、この
星は大爆発の2年前にも、やはり板垣さんによって小規模な増光が観測されて
いました。九州大学の山岡均 (やまおかひとし) さんを含む全世界の天文学者
たちが連携して解析に取り組んだ結果、これらの現象は2種類の爆発現象で
あったことが解明されました。1つの星で2種類の爆発が観測されたのは、世界
で初めてのことです。

 星全体が吹き飛ぶ大爆発は、超新星と呼ばれています。この超新星のメカニ
ズムのひとつに、誕生時に太陽の8倍以上の重さを持っていた星が、一生の最
終段階で起こすものがあります。しかし重い星は個数が少なく、その一生のよ
うすはまだよくわかっていません。特にこの種の超新星爆発は、星がもともと
持っていた外層部を失った後に起きる例が多く、その外層部と星周物質のよう
すによって多様な姿で観測されるのですが、外層部が失われていくようす、そ
してそのメカニズムについては、これまでほとんど手がかりがありませんでし
た。

 この超新星が発見された昨年10月、中心からの全体爆発 (これが超新星とし
て観測された) の時点で、ヘリウムに富む星周物質に囲まれた炭素・酸素コア
星であったことが示唆されました。 一方板垣さんは、2年前にも、ほぼ同じ
場所に増光天体を見つけていたのです。2年前の現象も解析していた山岡さん
は、発見画像の提供を受けて、この2つの現象の位置が完全に一致すると結論
付けました。また2年前の解析時から、過去50年間のアーカイブ画像上で、こ
の天体が映ったり映っていなかったりしていたため、増光が繰り返されていた
と考えられました。
 超新星となった後のスペクトルはヘリウムの細めの輝線が顕著で、この星が
ヘリウムが主成分の星周物質に囲まれていたことを物語っており、X線が強く
観測されたこともこれを支持します。2年前の増光に伴って、表面から爆発的
に外層部を放出して、この星周物質となったと考えるのが自然です。
 したがってこの天体の正体は、太陽の何十倍もの重さを持って生まれた星
が、外層を何回にも分けて放出してきた結果、水素に富む外層、そしてヘリウ
ムの層をも失って、炭素・酸素でできた中心部だけになった挙句に超新星と
なったものであろうと考えられました。つまり2004年の増光は、ヘリウム層を
吐き出す表面爆発の最後の1回で、2006年の爆発は星が一生の最後に起こす超
新星爆発だったのです。表面爆発と全体爆発 (超新星) の両方が1つの天体で
観測されたのは世界初です。この現象は、これまでくわしく解明されていな
かった重い星の進化の過程に、大きなヒントを与えてくれるものだったといえ
るでしょう。

 山岡さんは、「天文学は、アマチュアが大いに活躍している数少ない学問分
野のひとつです。特に日本のアマチュア天文家は、新天体の発見をはじめ、幅
広くかつ深い活躍を見せています。今回の発見はそのような活動の成果であ
り、プロの天文学者としては、彼らの活躍をより実りあるものにするため、日
々努力していきたいと考えています。特に、アマチュア天文家が発見した新天
体を研究することは、その発見を意味あるものにするために必須です。これか
らも、アマチュアとプロが手を取り合って、天文学を推進していきたいと考え
ています。」とコメントされました。

 なおこの成果は、2007年6月14日発行の英国の科学論文誌 Nature に発表さ
れました。

 ※この情報は、九州大学の山岡均さんよりご提供頂きました。
参照:
 A. Pastorello et al., A giant outburst two years before the core-col
lapse of a massive star, Nature 447, 829 (2007 Jun 14)

 超新星 2006jc と2年前の増光:大質量星の終末に起きた2種類の爆発
  (九州大学・山岡さんによるプレスリリース文)
  http://www.rc.kyushu-u.ac.jp/~yamaoka/06jc_PR/

 国立天文台アストロ・トピックス (247)
  板垣さん、やまねこ座の銀河に超新星らしき天体を発見
  http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000247.html
      2007年6月21日            国立天文台・広報室