アストロ・トピックス
No.293: すばる望遠鏡の観測から見えてきた、50個以上に分裂した微小な彗星核
国立天文台ハワイ観測所の布施哲治 (ふせてつはる) 研究員を中心とする研 究チームは、2006年5月にすばる望遠鏡を用いて地球へ接近しつつあるシュ ヴァスマン・ヴァハマン第3彗星のB核と呼ばれる本体が崩れていく様子の撮影 に成功、分裂後まもない13個の微小核が写る画像を速報として観測直後に発表 しました。引き続いて行われた本格的な画像解析により、観測データには前回 報告の13個を含む50個以上もの分裂核が写っていることが、このほど明らかに なりました。 シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星 (73P/Schwassmann-Wachmann 3、シュ ワスマン・ワハマン第3彗星とも呼ばれる:以後、SW3彗星) は、これまで1995 年と2000年に核が分裂したことが知られていました。その分裂した核のうち、 B核と呼ばれる直径が数百メートルの核は、2006年4月にもさらに小さく分裂し たという報告があります。 研究チームは翌月の5月3日、地球から1,650万キロメートル離れたSW3彗星を すばる望遠鏡の主焦点カメラ(Suprime-Cam) で撮影し、画像から分裂後まもな い13個の微小な核を検出しました (国立天文台アストロ・トピックス (211) 参照)。 13個の核を発見した画像は、公開までの時間的な制約から、簡易な画像処理 しか行っていないものでした。その後、研究チームでは本格的な画像解析を実 施し、明るいB核の影響を取り除いて、分裂した微小な核の検出が容易にでき るようにしました。続いて、撮影した画像全体の中から、B核の南西方向のお よそ縦5,500キロメートル、横7,700キロメートルの範囲 (およそ1.1分角×1.6 分角に相当) を切り出して調べた結果、当初の予想をはるかに上回る54個もの 微小な核の発見に成功しました。 研究チームの山本直孝(やまもとなおたか)研究員(産業技術総合研究所)は、 「解析を進めるにつれ、次々と分裂核が見えてきた時は眠れなくなるほどでし た。すばるの能力を存分に発揮できた成果といえるでしょう」と語っていま す。 また、B核と同様に2006年4月以前に分裂した大きなC核やE核は、B核から離 れているため、B核を中心に撮影した今回の画像全体(およそ0.5度四方:満月 の大きさに匹敵)には写っていませんが、B核とC核、およびB核とE核の間に未 発見の微小な核を検出できる可能性は残ります。このため、これらの微小な核 を発見すべく、研究チームは大型望遠鏡でも広範囲を一度に撮影できる主焦点 カメラの特徴を活かし、B核を中心とした画像全体(縦13万キロメートル、横17 万キロメートルの範囲:主焦点カメラの一視野分に相当) に対象を広げ更に探 査しました。この観測の制約(限界等級が24.3等級であること) を考えると、 直径数メートルから10メートル程度以上の分裂核であれば発見できるはずでし たが、拡大した探査範囲にはその存在を確認できませんでした。この理由につ いて「分裂から時間が経過しているため、小さな核はさらに小さくなり検出不 可能になった」と仮定すれば、今後、分裂核の寿命に迫れるかもしれません。 約46億年前に太陽系が形成された時の状態を保つとされる彗星。その本体で ある核は、氷とチリが混ざった、いわば“汚れた雪だるま”のようなものとい われます。布施研究員は、「今回のような彗星に関する研究が進み、核の素性 が明らかになるにつれ、太陽系誕生時の情報一つ一つが紐解かれていくことで しょう」と、今後の観測や研究に期待しています。 本成果は、2007年4月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌に発表されま した。また、微小な分裂核が写る画像は、同誌の表紙を飾っています。 参照:すばる望遠鏡ホームページ http://subarutelescope.org/j_index.html 国立天文台アストロ・トピックス (211) すばる、崩れゆくシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星をとらえる http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000211.html 2007年4月25日 国立天文台・広報室