アストロ・トピックス

No.240: 超新星爆発の光による重元素の生成メカニズムを解明

 いまだ完全に解決されていない問題の一つに、「太陽系や地球を構成する物
質が宇宙のどのような天体でどのように生成されたか?」というものがありま
す。水素、ヘリウム等の元素はビックバンで生成され、それよりも重い鉄まで
の元素は恒星内部の核融合反応で生成されたことはよく知られています。また、
鉄より重い元素のほとんどは、中性子の捕獲反応で生成されたと考えられてい
ます。さらに、鉄より重い重元素の原子核には、r核、s核、p核などがあります。
このうち、r核とs核は恒星の中性子捕獲反応で生成されたことがわかっていま
す。しかし、残りの35種のp核の起源は謎のままです。p核の元素は存在量は少
ないのですが、私達の生活に重要な元素である場合も多いのです。例えばイン
ジウムは、液晶ディスプレイや発光ダイオード、太陽電池などに使われている
元素です。

 日本原子力研究開発機構の早川岳人(はやかわたけひと)研究副主幹、国立
天文台の梶野敏貴(かじのとしたか)助教授、東京大学の野本憲一(のもとけ
んいち)教授らからなる研究チームは、"p核の起源"という50年以上も前からも
たれていた疑問の一部に答えを出しました。この研究チームは2004年に、太陽
系に存在する元素の特定の2種類の同位体(p核と、p核より中性子が2個多いs核)
の比が、34-80という原子番号の広い領域に亘って一定であるという法則を発
見しています。このような関係が成り立っているのは、p核が光核反応によって
生成したことを意味しています。もともと存在していたs核に高いエネルギーの
光が入射し、中性子が放出される反応が二回続けて発生することで、p核が生成
されます。宇宙では、超新星爆発において発生する莫大な光によって光核反応
が起こります。しかし、一般に恒星で生成される同位体の量は、恒星の質量等
の物理条件によって変化すると考えられています。そのため、観測された結果
を説明できるメカニズムが謎のままだったのです。そこで、今回、研究チーム
は最新の天体観測に基づく超新星爆発モデルを用いることで、物理状態を様々
に変化させて計算を行い、ようやく、そのメカニズムを明らかにしたのです。

 まず、超新星爆発を起こす前の元素組成が異なれば、生成される同位体の量
も異なることが予想されます。しかし、計算から次のことが分かりました。超
新星爆発を起こすような大質量星では、恒星の進化の過程で中性子の捕獲反応
が発生し、恒星の初期組成が異なっていても超新星爆発の時点では重元素の質
量分布がほぼ一定になるのです。さらに、超新星爆発のエネルギーによって温
度環境が変わり、生成する同位体量が変化することも影響を与えそうですが、
爆発エネルギーを変えたモデル計算からは、光核反応が起こる領域での最高温
度は一定であることもわかりました。このようにして、超新星の爆発エネルギ
ーや初期組成が異なっていても、生成されるp核が元になるs核の量に比例する
という関係が成り立つことが今回の研究の成果です。

 国立天文台では、さらに銀河系の初期に誕生したと考えられている金属量が
非常に少ない恒星で、p核同位体を観測することを計画しています。このよう
な観測からは、銀河系の初期にどのような重元素があったのかを明らかにする
ことができます。銀河系初期の世代の星は、過去に生成された重元素の蓄積が
ないため単一、もしくは数個の超新星爆発によって生成された重元素の分布を
保持していると考えられるからです。研究チームでは、銀河系初期に形成され
た恒星のインジウムの同位体の測定を提案しています。インジウムを観測する
利点は二つあります。まず、奇数同位体が二つしかなく、それぞれp核とs核の
同位体です。そして、他のp核元素に比べて、約13倍~360倍も存在量が多いた
めに、観測しやすいのです。さらに、金属量の低い星から高い星までの元素量
を測定すれば、p核同位体に基づいて銀河系の化学進化(銀河のなかでどのよう
に重元素が増加したか)がわかってくるでしょう。このような観測には高分散
分光器を搭載した大型望遠鏡が必要です。すばる望遠鏡など最先端の望遠鏡の
活躍が期待されます。

 なお、本研究は9月1日付け、アメリカの天文学会誌アストロフィジカル・ジャ
ーナル誌に掲載されています。

参照:日本原子力研究開発機構
 ・2006年記者発表の内容
   http://www.jaea.go.jp/02/press2006/p06090101/index.html

 ・2004年10月14日記者発表の内容
   http://ciscpyon.tokai-sc.jaea.go.jp/jpn/open/press/2004/041014/index.html

       2006年9月14日            国立天文台・広報室