アストロ・トピックス
No.177: 国立天文台などの国際協力研究チーム、 光ファイバーで2つの大型望遠鏡の結合に成功
2005年6月18日、パリ天文台、カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(CFHT)、Keck望 遠鏡、ハワイ大学、国立天文台などからなる国際協力研究チームは、ハワイの マウナケア山頂にある、85メートル離れたKeck-I望遠鏡とKeck-II望遠鏡のそれ ぞれの焦点で恒星の光を光ファイバーに入射し、同じ長さの光ファイバーによっ て地下の実験室まで伝送して取り出し、2つの光を混合して干渉させることに成 功しました。2台の大型望遠鏡を長い光ファイバーで結合した干渉実験ははじめてで す。 複数の望遠鏡を離して設置し、それぞれで受けた電磁波を1ヶ所に導いて混ぜ 合わせることで、巨大望遠鏡の鏡面の一部分のように機能させ、非常に高い角 度分解能の観測を行う望遠鏡設備が干渉計です。 現在、可視光・赤外線の波長域では、国立天文台(東京都三鷹市)にあるもの を含めて、世界には大小さまざまな11もの干渉計が稼動しており、建設中・実 験開発中のものや宇宙での干渉計の構想もいくつかあります。 実験開発中の干渉計のひとつが、`OHANA(オハナ)計画(注)です。マウナケア 山頂にある大型望遠鏡7台(Keck-I、Keck-II、すばる、Gemini、CFHT、IRTF、 UKIRT)を光ファイバーで結合し、口径800メートルの望遠鏡に相当する解像力の 天体像を得る壮大な計画で、すばる望遠鏡も将来的に参加を考えています。 今回は、`OHANA計画の初期段階における最初の干渉実験として、Keck-Iと Keck-IIを使って行われたもので、107 Her(ヘルクレス座107)という恒星に2つ の望遠鏡を向け、補償光学によりそれぞれの望遠鏡の焦点像を理論限界までシャー プにして光ファイバーの端面に入射し、干渉実験室まで伝送しました。ここで は、入射した光波を一つの光波として伝送できる、シングルモードファイバー と呼ばれる中心の細いファイバーが使われています。 2台のKeck望遠鏡の間隔は85メートルですが、300メートルの光ファイバーが 2本用意され、将来望遠鏡の間隔が500メートル程度まで対応できる可能性が示 されました。光ファイバーを使うと、望遠鏡から干渉実験室までの間にトンネ ルや真空パイプのような直線的な光の伝搬光路を設置する必要がなくなる一方、 観測波長帯域内のどの波長で見ても2本の光ファイバーで光路長が等しくなるよ うに特性を揃える必要があり、特にファイバーが長くなると難しくなります。 光ファイバーから取り出された光は、天体の方向によって望遠鏡に入射する までに生じる光路長の差を補正する迂回光路を通してから混合されます。この 混合時、そこに至るまでの光の伝搬距離が等しければ強め合い、半波長違えば 弱め合います。光の伝播距離の差を変化させると光が強弱を繰り返す干渉縞が 現れます。干渉縞のコントラストが低下することは、干渉計の持つ高い角度分 解能において、天体が点ではなく形状があることを表し、その情報を解析する ことで高解像の画像が得らるのです。 コントラストは、光学系の収差や2つの光路の特性の違いで多少低下している のが常であるため、通常の観測では、点とみなせる比較用の天体のデータで目 的天体のデータを補正しますが、今回は比較用の星のデータのみ得られていま す。 干渉実験そのものは大成功でしたが、課題も残りました。107 Her の視直径 は0.42ミリ秒角ですから、波長2マイクロメートル(μm)帯では、Keck-IとKeck-II をつないでもほぼ点とみなせる大きさで、干渉縞のコントラストは理論上99パー セントですが、この実験の結果は、25パーセントでした。ファイバーは96パー セントを達成できるぐらい特性が揃っているので、補償光学中のビームスプリッ タの材質の差と偏光の不一致が低下の原因と考えられ、これらの課題を克服し た次の観測が期待されます。 参照:米国Science誌、2006年1月13日号 Interferometric Coupling of the Keck Telescopes with Single-Mode Fibers Guy Perrin(パリ天文台)、Julien Woillez(Keck望遠鏡)、 Olivier Lai(カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡)、他32名。 国立天文台関係者:小谷隆行(こたにたかゆき; ハワイ観測所・ パリ天文台・東京大学大学院)、 西川淳(にしかわじゅん; MIRA推進室)、Olivier Guyon(ハワイ観測所) Keck望遠鏡`OHANA to Link Seven Mauna Kea Telescopes http://www.keckobservatory.org/news/science/060113_ohana/index.html サイエンス誌(日本版) 日本版1/13日号のハイライト http://www.sciencemag.jp/highlights/20060113/index.html#3 米サイエンス誌 アブストラクト http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/311/5758/194 図(フリンジ) http://www.sciencemag.org/cgi/content/figsonly/311/5758/194 補助の図(pdf) http://www.sciencemag.org/cgi/data/311/5758/194/DC1/1 国立天文台 MIRA推進室 http://tamago.mtk.nao.ac.jp/mira/ すばる望遠鏡 http://subarutelescope.org/j_index.html NASA光干渉計(各干渉計へのLINK) http://olbin.jpl.nasa.gov/links/index.html (注)`OHANAとは、ハワイ語で家族の意味で、Optical Hawaiian Array for Nano-radian Astronomy(ナノラジアンの天文学のためのハワイの光学干渉計)の略。 ナノラジアン=約57.3度の10億分の1=2/10000秒角で、超高角度分解能であること を示す。 2006年1月19日 国立天文台・広報室