アストロ・トピックス
No.168: 西はりま天文台「なゆた望遠鏡」、来年明るくなる彗星をキャッチ!
来年に起きる天文現象の中でも、天文ファンが期待しているのがシュヴァス マン・ヴァッハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann 3、以下 SW3)の地球へ の接近です。彗星としては、それほど大きくないのですが、地球に近づくため、 来年のゴールデン・ウィーク頃には肉眼彗星となるのでは、と期待されている からです。 今回の回帰としては日本で初めて、兵庫県立西はりま天文台が、地球に近づ きつつある彗星の姿を撮影することに成功しました。同天文台の森淳(もりあつ し)さんらによって2005年11月1.81日(世界時)、日本国内最大の口径2.0メート ル反射望遠鏡「なゆた望遠鏡」で、このSW3彗星の元気な姿が捉えられたのです。 撮影時におけるSW3は、地球からおよそ3天文単位(1天文単位とは地球と太陽 の平均距離で約1億5千万キロメートル)の距離にあり、明るさは約19等級でした。 まだアマチュア天文家が観測できる明るさではありませんが、さすがに口径 が大きな望遠鏡のこと、彗星はしっかりと輝いているのがわかります。 実はSW3彗星は、かなり癖のある周期彗星として知られています。1930年に発 見された後、1979年まで行方不明になっていただけでなく、1995年の出現時に は分裂を起こして、急激に明るくなりました。2001年の回帰時には、本体だけ でなく、二つの破片も回帰したのが観測されています。いずれにしろ、どんな 挙動を起こすかわからない彗星ですから、今回も彗星そのものが消失してしまっ ていないか、と心配する向きもあったのです。今回のなゆた望遠鏡の観測で、 そのような心配が無用であったことが示され、そして来年彗星が明るくなるこ とに期待がふくらんだといえるでしょう。 SW3彗星は2006年5月12日には地球から0.08天文単位(約1200万キロメートル; 地球-月間の約30倍)の距離まで接近します。月明かりを考慮すると4月末から5 月にかけてのゴールデンウィークが見頃になるでしょう。明るくなれば1996年 の百武彗星のように肉眼でも彗星の動きが分かるかもしれません。今からとて も楽しみです。 森さんらは、今後もなゆた望遠鏡の可視光分光器を使ってSW3の分光観測を行 う予定です。森さんを中心に進めている「西はりま天文台彗星スペクトルセン ター」もまもなく本格始動します。また、国立天文台・すばる望遠鏡でも観測 が予定されています。いずれも天文学的な成果が期待されるところです。 参照:西はりま天文台 SW3観測結果ホームページ http://www.nhao.go.jp/~mori/Comet/73p.html 2005年12月8日 国立天文台・広報普及室 注:このアストロトピックスは、西はりま天文台の森淳さんからいただいた原 稿を元に作成しました。