アストロ・トピックス

No.146: 宇宙のベビーブーム、初期宇宙で見つかった多数の銀河

 初期の宇宙では銀河のベビーブームが起こっていたようです。フランスとイ
タリアの天文学者のチームは、宇宙が現在の10~30パーセントの年齢だったこ
ろに、非常にたくさんの銀河があることを明らかにしました。これまで、観測
的にも理論的にも、宇宙初期にはたくさんの銀河や星は生まれないと考えられ
ていました。今回の発見で、いままで一般的に信じられてきた銀河形成や進化
の概念は大幅な修正が必要になりそうです。

 銀河がどのように誕生し、進化したのかを明らかにするのは天文学の大きな
目標です。そのためには、宇宙の様々な時期にある銀河の特徴を調べ、比較し
て、銀河進化の歴史を遡っていきます。遠くの銀河を調べるために、ディープ
サーベイが行われます。ディープサーベイとは、空のある部分を望遠鏡で長時
間観測することです。はるか遠方の銀河から届くかすかな光を集め、その光を
使って遠方銀河を調べるのです。深宇宙にある銀河からの光は、数十億年以上
もかかって地球に届きます。つまり、私達が今見ている光は数十億年以上も前
に銀河から発せられた光です。遙か彼方からの光を調べれば、銀河が数十億年
以上前にどんな特徴をもっていたのかを探るてがかりとなります。天文学者に
とって、遠くを見るとは昔にさかのぼることなのです。

 ある銀河までの距離がわかると、その銀河が今から何十億年前の宇宙空間に
いたのかがわかります。銀河進化の歴史を遡るためには、様々な宇宙年齢、つ
まり、様々な距離にある銀河のサンプルを集めて、それらの特徴を比べてみれ
ばよいのです。

 ただし、言うは易く行うは難し。銀河までの距離を測定するためには、分光
観測が必要です。しかし、遠くの銀河は暗く最先端の望遠鏡をもってしても、
大変時間がかかる観測です。今回発表された研究では、ヨーロッパ南天天文台
が持つ8.2メートル望遠鏡VLTに搭載されたVIMOS(Visible Multi-Object 
Spectrograph)という多天体分光器が使われました。この分光器を使うと、最大
で約1000個の天体を同時に分光観測することができます。非常に効率よく分光
データを取ることができるので、数年前なら何ヶ月もかかっていた観測データ
を数時間で取ることができるのです。

 観測チームは、VLTディープサーベイの観測領域から、赤い波長帯で24等(肉
眼で見ることができる明るさより1600万分の1の明るさ)よりも明るい銀河、合
計8000個を選びVIMOSで分光観測しました。そのうちの1000個の銀河は、ビッグ
バンから15億年から45億年(現在の宇宙年齢の10~30パーセント)の時代のもの
であることが明らかになりました。これは、以前の研究が示していた個数より
も2倍から6倍も多いことになります。さらに、発見された銀河では、星形成が
活発なこともわかりました。一年間に太陽質量の10~100倍の星が誕生している
のです。つまり、宇宙初期で星や銀河のベビーブームが起きていたことになり
ます。今までは、観測的にも理論的にも、宇宙の最初の約10億年の間は、星が
それほど多くは生まれないと考えられましたから、今回の研究結果により、銀
河形成の描像は修正を迫られるようです。

 この結果は9月22日発行の科学雑誌ネイチャーで発表されました。

参照:ヨーロッパ天文台プレスリリース(英語)
    http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2005/pr-24-05.html

        2005年9月29日            国立天文台・広報室