2月24日に「ルーリン彗星」という彗星(ほうき星)が地球に最接近します。その前後では、4〜6等の明るさとなり、空の暗い場所では肉眼で見えるかもしれないと期待されています。
そこで国立天文台では、この地球最接近を中心とした前後10日間に「ルーリン彗星見えるかな?」キャンペーンを行うことにしました。2009年2月20日の夜から3月1日の夜(2日の明け方)にかけて、肉眼や双眼鏡などでこのルーリン彗星を観察し、このキャンペーンページから報告していただくというものです。
みなさんには観察した日や観察した場所、彗星が見えたかどうかなどを報告していただきます。みなさんの報告の集計結果から、いつ、日本のどこで彗星が見えたかがわかるしくみです。携帯電話からでも参加できますので、今まで彗星を見たことがないという方もぜひチャレンジしてみてください。
彗星は、とても淡く観察するのが難しい天体です。彗星の位置やどうやって見るかをしっかりと理解し、できればキャンペーン期間前に練習をしておくとよいでしょう。また、「見えなかった」という報告も貴重な観察結果です。見えなかった場合もぜひ報告をお願いします。
みなさま、ぜひふるってご参加ください。
今回のキャンペーンでは、2月20日夜から3月1日夜(2日明け方)までルーリン彗星を観察していただきました。最終的に、1843件(うち有効な報告は1807件)のご報告をいただきました。天候に恵まれない中、たくさんのご報告をありがとうございました。
詳しい報告結果を公開いたしましたので、ご参照ください。
また今回のキャンペーンでは、速報として随時みなさまのコメントを掲載していきました。こちらのバックナンバーも、合わせてご参照ください。
携帯電話用のキャンペーンページへは、http://www.nao.ac.jp/i/phenomena/20090220/index.html から、または二次元バーコードを読み取ってアクセスしてください。
2009年は、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を夜空に向け、宇宙への扉を開いた1609年から400年経った節目の年として、国際連合・ユネスコ・国際天文学連合によって「世界天文年」と定められました。
このキャンペーンは、「世界天文年2009日本委員会公認イベント」として行われます。国立天文台では、このほかにも「三大流星群」と呼ばれる3つの流星群を対象にしたキャンペーンを公認イベントとしておこなうことにしており、1月には「見てみよう年の初めの流星群」キャンペーンを実施しました。今回のキャンペーンは、これに続いて行うものです。
今回のキャンペーンに参加して観察結果の報告後にメールアドレスを登録すると、次のキャンペーンのお知らせをそのアドレスにお届けします。ぜひ登録をお願いします。
彗星(すいせい)は、「ほうき星」とも呼ばれる天体です。多くの人は、夜空に伸びる長い尾を持った天体を思い浮かべるかもしれません。また、綿雲のようにぼうっと淡く見えるのも特徴的です。では彗星とはどんな天体なのでしょうか。
彗星とは、太陽系の中を運動しながらガスや塵(ダスト)を放出する小天体のことを指します。彗星本体の構造は「汚れた雪玉」とも例えられ、たくさんの塵を含んだ氷の塊だと考えられています。この中心部は「核(彗星核)」と呼ばれます。
ガスや塵を放出する天体と説明しましたが、いつも放出しているわけではありません。彗星が太陽にある程度近づいたときに、核の中にある氷が溶け出してガスとなり、吹き出るのです。この時、ガスといっしょに塵も吹き出てきます。核から吹き出たガスやダストは、核の周りを覆い、ぼんやりとした「コマ」を形成します。私たちはそのコマを見ているので、ぼうっとした姿として見えるのです。
彗星のもう1つの特徴である「尾」には、2種類あります。1つ目は、核から吹き出した塵でできた尾で、ダストの尾と呼ばれます。太陽と逆の方向に伸びますが、彗星が移動しますので少しカーブします。ダストの尾は白っぽく見え、吹き出した塵の量が多いほど、また尾が伸びている方向と地球との位置関係がよいほど、長く伸びた尾をみることができます。
2つ目は、核から吹き出したガスでできた青っぽい尾で、ガスの尾とかイオンの尾と呼ばれます。太陽風によって吹き飛ばされて、太陽とは逆の方向にまっすぐ伸びます。一般的にはダストの尾の方が明るく見えますが、彗星によってどちらかしか見られないこともあります。
なお、今回のルーリン彗星の場合は、地球との位置関係から、尾はあまり見られないかもしれません。
ルーリン彗星(C/2007 N3)(注1)は、2007年7月に、台湾にあるルーリン天文台(鹿林天文台)で行われた観測から発見された彗星です。発見当時は18.9等ととても暗く、太陽からの距離も6.4天文単位(注2)で、木星よりも遠い位置にありました。
ルーリン彗星は、発見後およそ1年半かけて太陽に近づいてきました。そして先ごろ2009年1月10日に太陽に最接近しました(近日点通過)。そのときの太陽からの距離は、1.21天文単位でした。一般的に、彗星は太陽との接近距離が近いほど、ガスや塵が活発に吹き出し、明るく見られます。ルーリン彗星の場合は、その距離が1.21天文単位で地球軌道(太陽から約1天文単位)よりも遠い位置にあり、残念ながらあまり近づきませんでした。
しかしながらルーリン彗星は、太陽からの距離が遠くなり始めた頃に地球に比較的接近しますので、地球から見て明るくなると予想されています。地球への最接近は、2月24日のお昼頃(日本時)で、その距離は0.41天文単位です。その前後で彗星は最も明るく見えるようになります。また、ルーリン彗星は、公転方向が地球とほぼ逆向きのため、すれ違うように接近します。地球との接近の頃は、夜空の中での移動が速くなります。
その後彗星は、太陽からも地球からも遠ざかっていきます。ほぼ放物線軌道を描いているため、再び太陽に戻ってくるのは少なくとも数万年以上先となります。
(注1)「C/2007 N3」は、仮符号(かりふごう)と呼ばれる符号です。「C/」は(周期彗星ではない)彗星を意味し、「2007 N」は2007年7月前半に発見されたことを意味します。つまり「C/2007 N3」は「2007年7月前半の3番目に発見された彗星」を意味します。
(注2)1天文単位は太陽から地球までの平均距離に相当し、キロメートルに換算すると1億4959万7870キロメートルになる。
→彗星の仮符号についての詳しい説明はこちら(新天体関連情報のページへ)
ルーリン彗星は、2月24日、地球に0.41天文単位にまで近づきます。この前後数日間が最も明るくなり、予想通りならば4等から6等級となることが期待されます。この明るさは、空の暗いところならば、肉眼でかろうじて見えるくらいの明るさと言えます。
キャンペーン期間中のルーリン彗星の位置を星図に示しました。この期間、彗星はおとめ座からしし座に向かって移動していきます。ちょうど地球に接近する2月23日から24日にかけては、見かけ上土星のすぐ近くを通過します。またキャンペーン期間後半の2月27日から28日にかけては、しし座の一等星レグルスのすぐ近くを通過します。その他の日でも、土星やレグルスといった明るい星を目印にすると、探しやすいでしょう。
なお、この星図は北が上に描かれています。彗星が南の空にある時間帯では、見た目の星の位置もほぼこの星図の通りになりますが、東(南東)の空から上ってきたときや、西(南西)の空に沈むときには、傾いて見えますのでご注意ください。
彗星は、星座を形作る星と同じように、一日の中では東の空から上り、西の空に沈みます。真南に見えるとき(南中)が、もっとも地平線からの高度が高くなり、観察条件がよくなります。ただし、彗星の星空の中の移動が早いため、南中する時刻と地平線からの角度は、キャンペーン期間の10日間でもだいぶ変わります。キャンペーンが始まる2月20日の夜では、21日に日付けがかわった後の2時頃で、約52度(東京の場合、以下同じ)です。最接近となる2月24日の夜の南中は、25日に日付けがかわった後の1時頃で約60度、キャンペーンが終わる3月1日の夜では、23時頃で約68度となります。いずれにしても、南の空の高い位置に見られます。
観察に適した時間帯のおおまかな目安は、南中のおよそ3時間前から3時間後までです。それよりも前や後では地平線に近く、地上光や大気中のもやに紛れてしまうからです。2月20日頃ならば23時頃から5時頃、2月24日頃ならば22時頃から4時頃、3月1日頃ならば20時頃から2時頃です。もし、低い空まで澄み渡っている場合には、さらに前後1時間くらいは観察できるでしょう。
日時によって、星座やルーリン彗星がどこに見えるかを調べたい場合は、暦計算室の今日のほしぞらを参考にしてください。星座線というメニューで「星座名」を選択して「再描画」させると、星座線と星座名が表示されます。また、ルーリン彗星の位置も調べることができます(星図の中に「ルーリン彗星」と表示されます)。このほか、観察する地方も指定できますので、ぜひご利用ください。
表:ルーリン彗星の南中時刻・南中高度・観察に適した時間帯(東京)
日付 | 南中時刻 | 南中高度 | 観察に適した時間帯 |
---|---|---|---|
2月20日頃 | 2時頃 | 約52度 | 23時〜5時頃 |
2月24日頃 | 1時頃 | 約60度 | 22時〜4時頃 |
3月 1日頃 | 23時頃 | 約68度 | 20時〜2時頃 |
※低空まで澄み渡っている場合には、さらに前後1時間くらい観察できる(ただし、明け方は薄明が始まるため5時頃まで)。
天の川が見えるような空が暗くて星のよく見える場所でなら、機材をなにも使わずに、肉眼で彗星を見ることができるかもしれません。星座を形作る星(恒星)とは違って、小さな雲のようにぼうっと広がった感じに見えるはずです。ただし、大きな都市やその周辺では、空の明るさに紛れてしまって肉眼で見るのは難しいかもしれません。
肉眼で見えないときでも、双眼鏡を使えば彗星を見ることができるかもしれません。ただ、あまり倍率の高い(15倍以上の)双眼鏡や、口径(レンズの直径)の小さな(3cm以下の)双眼鏡は彗星を見るのに適していません。倍率の高い双眼鏡を使うと、見える範囲が狭いために彗星を視野に入れづらいですし、彗星の見え方も暗くなってしまいます。同様に小さな双眼鏡では、彗星があまり明るく見えません。
また、可能ならば、双眼鏡を三脚などに固定して彗星を見るようにしてください。双眼鏡を手で持っていると、どうしても揺れてしまい、見づらくなってしまいます。
とはいえ、最初からあきらめてしまうのではなく、お持ちの双眼鏡で是非チャレンジしてみてください。機材の能力が不十分なところを、繰り返し観察して慣れることでカバーできることもあります。
なお彗星は、キャンペーンの期間中、2月23日夜と24日夜は土星の近くを、また2月27日夜と28日夜には、しし座の一等星レグルスの近くを移動していきます。双眼鏡で見ると、視野の中でこれらの天体とルーリン彗星を一緒に見ることができ、探しやすいと思われます。そこで、双眼鏡観察用の図を作成しましたので、こちらも参考にしてください。
→双眼鏡観察用の図へ(土星の近く:2/23夜・24夜、レグルスの近く:2/27夜・28夜)
口径6cm程度の小望遠鏡でも彗星を見ることができるはずです。
倍率はせいぜい20〜30倍程度と、あまり倍率を高くしないようにしましょう。双眼鏡と同じように、倍率を高くすると、見える範囲が狭いために彗星を視野に入れづらいですし、彗星の見え方も暗くなってしまいます。
15秒程度の長時間露出が可能なデジタルカメラであれば、彗星を撮影できるかもしれません。カメラの性能にもよりますが、興味のある方は、以下のページを参考にチャレンジしてみましょう。
コマと呼ばれる部分が広がり、小さな雲のようにぼーっとした面積体に見えるはずです。ガスが青い色で光っているため、全体的には青みがかって見えそうです。また、中央には恒星状の強い集光が見えるかもしれません。
今回のルーリン彗星は、地球から見て太陽とほぼ正反対の方向に彗星が位置します。このような場合には、彗星の尾が、地球から見て彗星の向こう側(奥側)に伸びてしまいますので、あまり長く伸びては見えないと予想されます。
また見える場合でも、肉眼で確認するのは難しいかもしれません。双眼鏡や望遠鏡ならば、かすかな尾がわかるかもしれませんので、注意をはらってください。
日本全国、どこでも見ることができます。(日本以外の国でも見ることができます。)
ただしルーリン彗星は、大都市や街灯の明かりに比べてとても弱い光しか出していません。人工の明かりの影響があると、それに邪魔されて、彗星がとても見えづらくなります。
大都市から離れた場所の方が、彗星ははるかに見やすいでしょう。また市街地の場合でも、近くに街灯など人工の明かりがない(少ない)場所の方が、より見やすくなります。
明るい場所から暗い場所に出て、10分以上は暗さに目を慣らしましょう。ルーリン彗星の光はたいへん淡いですので、暗さに十分目を慣らさないと、見るのがなかなか難しいと思われます。双眼鏡や望遠鏡を使う場合でも、やはり目が暗さになれているほうが暗い部分まで見えますので、より楽しめるでしょう。
ルーリン彗星のように淡い天体の場合、彗星のある位置をまっすぐに見つめるより、目を少しそらし気味にしたほうがよく見えることがあります。視野の中心には、色の判別が得意ですが暗い光の苦手な細胞があり、視野の周辺には、色の判別は苦手ですが暗い光の得意な細胞があるためです。まっすぐに見つめずに注意だけを向けるというのは、慣れないとなかなか難しいのですが、やっているうちに慣れてくると思います。
冬の時期なので、夜間は冷え込むことが予想されます。普段の生活では、冬の夜に何十分も屋外でじっとしている経験をすることは、なかなかないことかもしれません。寒さには十分注意してください。普段の夜間に外出するときよりも、さらに厚着をすることをお勧めします。カイロなどを使うのもよいかもしれません。
注:これらの画像では、大きな望遠鏡等で光を長時間蓄積させて撮影しているため、ルーリン彗星がたいへん明るく写っていますが、目で見て観察するときには、肉眼ではもちろんのこと、双眼鏡や望遠鏡を使用してもこれほどには輝いて見えないことにご注意ください。
ルーリン天文台(鹿林天文台)にて撮影された
2007年7月撮影 |
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石垣島天文台の「むりかぶし」望遠鏡 2009年1月19日5時59分(日本時)撮影 |
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国立天文台三鷹の50cm社会教育用公開望遠鏡で
2009年1月25日5時21分(日本時)撮影 |
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石垣島天文台の「むりかぶし」望遠鏡 2009年2月2日5時7分(日本時)撮影 |
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超高感度ビデオカメラによって2月5日に撮影された
2009年2月5日未明(日本時)撮影 |
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石垣島天文台の「むりかぶし」望遠鏡 2009年2月5日5時16分(日本時)撮影 |
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国立天文台天文情報センターが撮影した
2009年2月7日4時54分(日本時)撮影 |
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国立天文台天文情報センターが撮影した
2009年2月22日4時44〜51分頃(日本時)撮影 |
このほかに50mmレンズによる固定撮影の作例画像があります。
→デジタルカメラで撮影する方法(作例画像)はこちら
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