No.503: 宇宙誕生の残響を聞きたい-宇宙の始まりからやってくる重力波に対して得られた新しい上限値-

 重力波は、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論により、その存
在が予測されています。1960年代から世界各国で検出の試みがなされています
が、いまだ直接観測されていません。重力波は、巨大な質量を持つ天体が光速
に近い速度で運動するときに、強く発せられます。例えば、ブラックホールの
衝突や超新星爆発、そして宇宙誕生の瞬間にも、重力波が発生すると予測され
ています。
 重力波は、時空間のわずかなひずみとして、光と同じスピードで伝わり、何
でも素通りしてしまうという性質を持つと考えられています。したがって原理
的には、可視光や電波といった電磁波では直接観測することができない宇宙誕
生の瞬間 (時間という概念ができた瞬間) まで、重力波によって直接観測する
ことが可能です。

 重力波は、時空のひずみとしてやってきます。時空がゆがむと物体間の距離
が変化します。重力波を直接観測するには、この性質を利用し、あらかじめ距
離がわかっている物体間の距離の変化を計測する方法が用いられます。距離の
変化量の計測にはレーザー干渉計を用いるのが現在の主流です。この際、物体
間の距離が長ければ長いほど、距離の変化も大きくなり、計測が容易になりま
す。そこで、国立天文台のTAMA300をはじめとする、数百メートルから数キロ
メートルの大型レーザー干渉計が世界各地で建設され、重力波検出の試みがな
されています。

 その中でもアメリカの検出器LIGO (Laser Interferometer 
Gravitational-Wave Observatory) は、現在最も感度が高い装置です。今回2
年間の観測データの解析により、宇宙の始まりからやってくる重力波に対する
新しい上限値を求めることに成功しました。詳しい解析の結果、重力波のエネ
ルギー密度は、100ヘルツ付近の周波数帯において、宇宙の臨界エネルギー密
度の6.9×10の-6乗未満であることが分かりました。これは、これまでの上限
値である、ビッグバン元素合成や宇宙マイクロ波背景放射から得られる間接的
な限界を、100 ヘルツにおいて上回るものです。
 この結果から、比較的強い重力波のエネルギー密度を予測している初期宇宙
進化モデルは、棄却されることになります。また、超弦理論や弦理論に基づく
モデルに対しては、これまでよりも厳しい制限が付くことになります。

 この研究成果は、2009年8月20日発行の英国の科学雑誌「ネイチャー」に掲
載されました。

参照:

 "An upper limit on the stochastic gravitational-wave background of 
cosmological origin"
  The LIGO Scientific Collaboration (注), The Virgo Collaboration, 
2009, Nat 460, 990

 LIGO - Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory (英語)
  http://www.ligo.caltech.edu/

 重力波プロジェクト推進室 (国立天文台)
  http://tamago.mtk.nao.ac.jp/spacetime/index_j.html

 注:国立天文台重力波プロジェクト推進室のメンバーの一部も、The LIGO 
Scientific Collaborationのメンバーとして共著者に含まれる

 

      2009年9月4日            国立天文台・広報室

国立天文台 メールニュース

国立天文台 アストロ・トピックスは、2010年6月まで発行していたメールニュースです。2010年7月からは、「国立天文台 メールニュース」として装いも新たにし、注目いただきたいトピックスの主要な内容とその詳細情報の参照先をお届けしています。

国立天文台 メールニュース