アストロ・トピックス
No.023: すばる望遠鏡 NASAの探査機計画と共同研究 ~土星の衛星タイタンのジェット気流~
2003年冬、雪景色のマウナケア山頂で、すばる望遠鏡にNASAの装置が取りつ けられ、土星の衛星タイタンの激しいジェット気流が観測されました。この観 測は、NASA等が打ち上げた「カッシーニ」土星探査ミッションから、探査機 「ホイヘンス」が分離して、2005年1月にタイタンの濃い大気中に突入すること と連携して行われたものです。 HIPWAC(Heterodyne Instrument for Planetary Wind and Composition)と名 づけられたNASAの装置は、惑星の気流や大気組成を観測するためのヘテロダイ ン受信機(*注)です。すばる望遠鏡の大口径を生かしてHIPWACで行った観測を、 これまで行ってきた観測結果と合わせて考えると、タイタンの上層大気(成層圏) には、高緯度で時速756キロメートルの風、つまりジェット気流が存在するとい う説を裏づけるものとなりました。すばる望遠鏡による観測では、ジェット気 流はタイタンの自転と同じ方向に吹いており、赤道付近の成層圏では気流は高 緯度よりも穏やかである(時速約425キロメートル)ことが明らかとなりました。 これはジェット気流モデルとよく合う結果です。HIPWACは、メリーランド州グ リーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで設計・製作されました。 すばる望遠鏡は、日本の国立天文台によって運営されています。 タイタンの気流の方向を地球から観測するのは極めて困難です。これは、タ イタンの上層大気中に炭化水素(水素と炭素から成る分子)があるため、大気が オレンジ色に霞んでしまって動きを示す特徴がとらえられないためです。 この観測は、もともとNASA、欧州宇宙機関(ESA)、イタリア宇宙機関(ASI)の 国際事業であるカッシーニ土星探査ミッションのために進められました。この ミッションは、大型ロボット探査機を用いて、土星とその31個の衛星を探査す るもので、今年7月からいよいよ土星周辺で活動を展開する予定です。ESAが製 作したホイヘンスは、探査機カッシーニに取りつけられていますが、12月には 切り離されて22日間の旅の後、タイタンの大気に突入します。カリフォルニア 州パサデナのNASAジェット推進研究所がカッシーニ土星探査ミッション全体を 統括しています。 すばる望遠鏡は、HIPWACに大口径による集光力を提供しました。すばるの直 径8.2メートルの主鏡は、一枚鏡としては現在定常運用されている望遠鏡中で最 大のものです。HIPWACは、光を異なる周波数に非常に細かく分けて高い分光分 解能を達成しているため、より多くの光を集めれば、より高い性能が発揮でき るのです。この研究には、チャレンジャー宇宙科学教育センター、メリーラン ド大学、ハワイ大学、ドイツのケルン大学などの研究機関も参加しています。 参照:すばる望遠鏡 土星の衛星タイタンのジェット気流 ― NASAの探査機計画と共同研究 http://www.naoj.org/Pressrelease/2004/06/29/j_index.html NASAゴダード宇宙飛行センター発信のプレスリリース http://www.gsfc.nasa.gov/topstory/2004/0615hipwac.html 2004年6月30日 国立天文台・広報普及室 *注:ヘテロダイン受信機とは、ラジオやテレビと同様の方法で、波の性質を損 なわずに光を受信する装置で、波としての性質を利用して周波数を極めて 正確に測定できます。