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No.004: すばる望遠鏡、今春明るくなるリニア彗星に氷粒を検出

 リニア彗星(C/2002 T7(LINEAR))は、2002年10月にアメリカ・リンカーン研究
所の"リニアプロジェクト(LINEAR=Lincoln-Laboratory Near Earth Asterid)"
のチームが発見した彗星です。発見時の日心距離は約7天文単位(1天文単位は地
球・太陽間の平均距離、1億5千万キロメートル)でしたが、今年4月23日には太
陽に0.6天文単位まで近づき、肉眼彗星になると期待されています。ちなみに、
同時期に、別の彗星(ニート彗星 C/2001 Q4)も肉眼彗星となることが期待され
ています。

 県立ぐんま天文台、国立天文台、東京大学などの研究グループは、すばる望
遠鏡を用いて、2003年9月14日、このリニア彗星の近赤外線分光観測を行い、
世界で二例目となる"氷粒"の直接検出に成功しました。
 彗星は水の氷(H2O)が主成分なのですが、その氷がどのような状態で存在する
か、よくわかっていません。氷の粒のサイズや結晶状態を知ることは、46億年
前、太陽系が生まれた頃に、彗星核がいったいどのような環境でできたかを知
る有力な手がかりとなるはずです。

 ところが彗星の氷を直接、検出するのは困難です。太陽に近づいて、明るく
観測しやすい彗星になると、氷は彗星核から放出されるとすぐに太陽熱で融け
てしまいます。そのため、氷が融けないような遠方で観測すればよいのですが、
今度は彗星そのものが暗くて観測が困難となってしまいます。したがって、彗
星の氷粒の検出には、「大型の彗星」であり、なおかつ「遠方での観測」が必
須となるわけです。最初の成功例は、20世紀最大の彗星であるヘール・ボップ
彗星で、太陽から7天文単位という遠方でした。

 今回は、このリニア彗星がやはりハレー彗星並の大物と考えられており、当
時まだ太陽から3.5天文単位という比較的遠方にあったため、氷粒が彗星近傍の
中で融けていないと予想されました。そこで、すばる望遠鏡の近赤外線分光器
CISCO によって、核近傍の1000キロメートル付近のみのコマを取り出しました。
その結果、水の氷の吸収を示すスペクトルを得ることに成功しましたが、通常
の結晶質氷ならば見られるはずの1.65マイクロメートルの吸収が存在しません
でした。すなわち、この彗星の氷粒はアモルファス(非晶質)の状態にあると考
えらるわけです。アモルファスの氷は、絶対温度140度以下でしか形成されず、
彗星の氷が低温での凝結物質であることがあきらかになりました。さらに、今
回の観測では氷(H2O)だけではなく、どうやらアンモニア(NH3)の氷らしい吸収
を初めて検出しました。アンモニアの含まれた氷(H2O)の存在は、太陽系の惑星
が持つ衛星などでは確認されていましたが、彗星の氷(H2O)の中に発見されたの
は初めてです。

 今回の成功は、すばる望遠鏡の集光力と高い空間分解能による成果とも言え
るでしょう。このレベルの彗星で、氷粒の観測が可能であれば、さらに今後は
起源の異なると思われる彗星についても同様の観測ができるのでは、と期待さ
れます。


参照:文献 "Evidence of Icy Grains in Comet C/2002 T7 (LINEAR) at 3.52 AU"
              Kawakita, Hideyo; Watanabe, Jun-ichi; Ootsubo, Takafumi; 
              Nakamura, Ryosuke; Fuse, Tetsuharu; Takato, Naruhisa;
              Sasaki, Sho; Sasaki, Takanori Astrophysical Journal,
                          Volume 601, Issue 2, pp. L191-L194.(Feb. 1).
   地球に接近するリニア彗星から氷粒を発見
    http://subarutelescope.org/Pressrelease/2004/04/04/j_index.html
   明るい彗星がやってくる ~今年の春に期待される二つの肉眼彗星~
    http://www.nao.ac.jp/pio/2comets/

      2004年4月5日            国立天文台・広報普及室

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