明るい彗星がやってくる
〜今年の春に期待される二つの肉眼彗星〜
二つの彗星は、どの程度の明るさで見えるのか? 〜 確率予測 〜
彗星の明るさを予測するのは非常に難しいことです。ハレー彗星などのように、過去何度も太陽に近づいている彗
星なら、過去の観測データを元にしてかなり精度の良い予測をすることができますが、今回のような全く新しい彗星
の場合には、その彗星に関する過去のデータがありません。ですから、このような新彗星の場合には、過去の同様の
彗星の観測を鑑み、太陽に近づくにつれてどのように明るくなっていったかの平均的な振る舞いを適用して、観測時
の時の明るさから予測する以外には、ありません。その時の平均的な振る舞いというのは、彗星の明るさが太陽の距
離の4乗に逆比例するというものです。彗星は、氷の塊ですので、太陽に近づくにつれ、どんどん物質が蒸発して、
それらもまとめて彗星の明るさに寄与するため、2乗ではないわけです。
ですが、これはあくまで平均的な予測です。実際の明るさがどうなるのかは、やってくるまでわからない、という
のが本音なのです。それだけ彗星には”個性”が強く、時には予測を大幅に越えるような明るさになったり、逆に予
想を大きく下回ってしまって、天文ファンをがっかりさせることもしばしばでした。
そこで、国立天文台の研究グループは、こうした明るさの予測には彗星の個性による幅があるのだ、ということを
はっきりと示すため、過去の同様な彗星のデータを統計的に処理をして、確率と共に、幅を持った予測を出してはど
うか、と考えました。詳細は省略しますが、過去の同様な起源を持つ彗星について、それらの観測データを解析した
上で、それらの彗星の太陽からの距離に依存する明るさの変化を調べました。すると、確かに彗星の個性によるばら
つきが大きいものの、その明るさの変化率は、おおむね正規分布と見なせることがわかりました。その明るさの平均
値と分散を用いれば、新たに発見された彗星について、ある確率で幅を持った明るさの予測をすることが可能となり
ます。これを彗星の確率予測と呼び、実用化しています(注*)。
今回の二大彗星について、3月現在の明るさから確率67%で推定した、近日点通果日の地球から見た明るさの予
測値をした結果は、下記の通りです。
ニート彗星 5月15日 2.4等 〜 4.1等 (確率67%)
リニア彗星 4月23日 1.3等 〜 4.1等 (確率67%)
いまのところ、両彗星はよほど個性が強くない限り、7割ほどの確率で肉眼彗星になるといえるでしょう。なお、
この予報値は、今後、新しいデータが入り次第、改訂していく予定です。
(注*) 日本天文学会 2001年3月春期年会 L03a「統計的手法を用いた彗星光度の確率予測の試み」
小野 正雄(東京理科大工)、渡部 潤一