明るい彗星がやってくる

 〜今年の春に期待される二つの肉眼彗星〜



二大彗星とは?

 この春に肉眼で見える可能性のあるニート彗星(C/2001 Q4(NEAT))とリニア彗星(C/2002 T7(LINEAR))のことを、
まとめて二大彗星と呼んでいます。

 ニート彗星は、2001年夏に発見されました。発見したのはアメリカ・パロマー山天文台、口径1.2mシュミット
望遠鏡による近地球小惑星観測プログラム”ニートプロジェクト(NEAT=Near-Earth Asteroids Tracking programme))
です。この彗星の発見時の太陽からの距離は約15億キロメートルでした。これは、ほぼ土星の軌道あたりになりま
す。一般に、彗星は氷を主成分とするので、遠い場所では蒸発しません。彗星核のなかに含まれる一酸化炭素や二酸
化炭素などが蒸発しますが、ごくわずかです。ですから、遠方で彗星として発見されるということは、彗星本体であ
る核が相当に大きな必要があります。新彗星が発見された距離としては、ニート彗星が最遠記録となりました。ニー
ト彗星は、この5月15日には太陽に1億4千万キロメートルほどに近づき、肉眼でも見える彗星になると期待され
ています。

 一方、後者のリニア彗星(C/2002 T7(LINEAR))は、2002年10月にアメリカ・リンカーン研究所の”リニアプロジェ
クト(LINEAR=Lincoln-Laboratory Near Earth Asterid)”のチームが発見しました。発見された時の太陽から
の距離は約10億キロメートルと、やはりかなり遠方でした。こちらも4月23日には太陽に9千万キロメートルま
で近づき、やはり明るくなって肉眼で見えると期待されています。

 両方の彗星とも、本体である核がどの程度の大きさなのかは、よくわかっていません。すでに核からの蒸発が激し
く、ガスや塵の厚いベールに覆われてしまって、核そのものの大きさを直接知ることができないからです。その替わ
り、彗星の明るさや大きさを、絶対等級(*注)とよばれる明るさの値で表すことがあります。これは彗星を地球か
ら1天文単位、太陽から1天文単位においたと仮定したときの見かけの明るさです。ふたつの彗星の絶対等級を、い
ままでの観測結果から推定してみると、ニート彗星が3.5等、リニア彗星が4.5等となります。1997年に出
現したヘール・ボップ彗星の絶対等級はマイナス1等でしたので、それに比べればどちらの彗星も100分の一程度
と暗く、小さいわけですが、ハレー彗星の絶対等級が4等ですから、少なくとも両者ともハレー彗星並みの大彗星と
いうことはできるでしょう。

(*注) 星や天体の明るさは地球からの距離によって大きく変わります。近い天体は明るく見え、遠い天体は暗く
見えるので、天体そのものの明るさを同じ基準で比べる必要があります。そういった同じ基準で比較した星の明るさ
を絶対等級といいます。星の場合には、地球から32.6光年の距離に置いたときの見かけの明るさ、彗星の場合に
は地球と太陽との両者から1天文単位(太陽と地球との平均距離=1億5千万キロメートル)に置いたときの明るさ
を絶対等級と定義します。