しし座流星体の月面への衝突

     ー月の夜の部分で衝突発光の可能性ー

 流星体の多くは1グラム以下の小さな塵であるが、中には火球として観測さ
れるようなかなり大きくなものもある。これらが地球ではなく大気のない月面
に秒速数10キローメートルで衝突すれば、一瞬ピカリと光るであろう。しか
し、どのくらいの明るさで、また、どのくらいの頻度で地球から見えるのかは
よくわかっていなかった。1999年獅子座流星群の活動期に、月(月齢10日)の夜
の部分をアメリカ、メキシコから監視していた観測者は、いくつかの月面での
短い発光の観測に成功した。明るさは3〜7等級であった。我国でも電気通信大
学のグループが3つの発光の観測に成功した。

 数多くの月面発光の明るさを測ることによって、地球付近の太陽系空間にお
ける1〜10キログラムの小天体の流量を調べることが出来る。この方法は、一
人の観測者が一度に月面の広い範囲を観測することが出来るので、地球上での
流星観測に比べ、数の少ない大きな流星体の数を調べるには都合が良い。一方、
秒速数10キロメートルという衝突速度は実験室では再現できない。最も高速の
飛翔体を発射できる宇宙科学研究所のレールガンなどでも秒速8キロメートル
止まりである。月面衝突発光の観測は、高速度衝突現象の研究に新たな分野を
開くかもしれない。

 月面衝突発光の観測で最も大事なのは、離れた2地点以上の観測者が同時に
観測を行って、月面での現象であることを確認することである。地球の周りに
は多くの人工衛星が飛んでいてそれらが一瞬キラリと光ることがよくある。2
地点から観測すれば人工衛星は月面の違った場所に見えるので区別することが
できる。

 観測は望遠鏡にビデオカメラを取り付けて月の夜の部分を撮り続け、後で再
生しながら0.1秒ほどの一瞬の発光を捜すだけである。動眼視力が良くないとな
かなか難しい。望遠鏡は口径20センチメートルぐらいまでの小さなものの方
が良い。大きな望遠鏡は視野が狭くなるのでかえって不利である。また、時間
ができるだけ正確にわかるように工夫する必要がある。ビデオカメラには自動
的に感度を調整するものが多いのでうまく使いこなす必要がある。月面の昼の
部分はハレーションを起こしていてもかまわない。夜の部分の月の縁が見える
ようにする。

 今年の獅子座流星群の活動期には、月は夕方、細い三日月として西の空低く
見えている。あっという間に沈んでしまうので観測可能時間は1時間もないが予
想されている夜中過ぎの流星嵐の前に、月の夜の部分もできるだけ多くの方に
観測して欲しい。


         情報提供: 柳澤正久(電気通信大学・情報通信工学科)