vsolj-news 380: A New Symbiotic Nova in Scutum VSOLJニュース(380) 山本さん発見のたて座の増光中の天体は共生星新星と判明 著者:田口健太(京都大学) 連絡先:kentagch@kusastro.kyoto-u.ac.jp 2022年は日本から観測可能な明るい新星は反復新星のU Sco以外出ていません でしたが、注目に値する天体が発見されました。元々ミラ型変光星として知られ ていたGDS_J1830235-135539(あるいは2MASS J18302347-1355421)という天体で、 今から約1年半ほど前(2021年4月頃)から共生星新星という新星現象が発生してい るようです。この現象は今後も長きに渡って観測出来ると予想されます。 愛知県岡崎市の山本稔(やまもとみのる)さんが、2022年3月にこの天体が緩や かに急増光していることに気づかれ、VSOLJ(初出はvsolj-obs 77550)や各種 SNS 等にて報告されました。この天体は元々、the Bochum Galactic Disk Survey (GDS)によって発見された変光星であり、the OGLE Collection of Variable StarsやGaia Data Release 3にはミラ型星として登録されていた天体だったため、 今回の新星爆発の以前も、約1年ごとの周期で増減光を繰り返していたことが確 認されています。しかし今回の増光は、この周期よりも長い時間をかけて、特に 青い波長帯(ASAS-SNのgバンド、ATLASのcyanフィルターなど)では過去の増減光 の変光範囲を超えて明るくなっていたため、ミラ型変光星としての増光とは異な る現象が発生している可能性が示唆されるものでした。 これを受けて、2022年9月20.43日(世界時)に京都大学岡山天文台3.8mせいめい 望遠鏡にて分光観測が行われました(Taguchi et al., ATel #15623)。その結果、 中性水素のバルマー系列の強い輝線や、中性のヘリウム・酸素や1階電離した鉄 の輝線が検出され、この増光現象が共生星新星であることが確認されました。こ の天体の2022年9月20日のスペクトル、それまでの光度曲線 (Taguchi et al., ATel #15623からリンクされているものと同じ) は以下からご覧いただけます。 http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~kentagch/atel/GDS_J1830235-135539.pdf 共生星新星(symbiotic nova)とは、白色矮星と赤色巨星からなる連星系(共生 星、symbiotic star)で発生する現象です。物理的には通常の新星と同じく、伴 星から白色矮星表面に降着した物質が爆発的な原子核反応を発生させることで発 生すると考えられています。今回の天体は、元々ミラ型変光星として知られてい た赤色巨星が、実は白色矮星との連星系であり、現在は白色矮星の方が共生星新 星によって赤色巨星よりも明るくなってしまったようです。 共生星新星の一部には進化が極めて緩やかなものがあります。そのような過去 の共生星新星の代表例としては、RR Tel、V1016 Cyg、PU Vul、V4368 Sgrなどが 挙げられます 。本田実(ほんだみのる)さんと桑野義之(くわのよしゆき)さんが 1978-1979年に発見されたPU Vulや、和久田実(わくだみのる)さんが1994年に発 見されたV4368 Sgrは現在も約13等(Vバンド、以下同じ)ですし、1964年に発見さ れたV1016 Cygは現在も約12等です(vsolj-obs 79437)。今回の天体も、現在まで の増光が緩やかであったため、今後も10年以上に渡って観測が可能だと予想され ます。 これら一部の共生星新星の進化が緩やかなことは、物理的には白色矮星の質量 が軽いことと関係していると考えられています。反復新星として有名なRS Ophや T CrBも実は共生星です(共生星反復新星、symbiotic recurrent nova)が、白色 矮星の質量はずっと重いと考えられています。共生星新星については、vsolj- news 066もご参照ください。 Gaia Data Release 3によると、この天体の座標は 赤経: 18時30分23.466秒 赤緯: -13度55分42.17秒 です (2000 年分点)。 森山雅行(もりやままさゆき)さんの9月29日の観測(vsolj-obs 79437)によると、 この天体は12.3等(Vバンド)でした。今後の明るさの変化などが注目されます。 今後のVSOLJへの観測報告の際は、GCVS名がつくまではGDSJ1830235-135539の 名前をお使い下さい(GDS と J の間にアンダースコアは不要です)。 2022年10月 4日 参考文献 K. Taguchi et al. (2022), ATel #15623 vsolj-obs 77550, 79437 vsolj-news 066 vsnet-alert 26942 ※この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開  等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典  を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、  VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利  です。購読・参加お申し込みは ml-command@cetus-net.org に、本文が   subscribe vsolj-news  と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。  なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。