vsolj-news 375: Naked-eye Visibility of V1405 Cassiopeiae VSOLJニュース(375) カシオペヤ座の新星が肉眼等級に 著者:田口健太(京都大学) 連絡先:kentagch@kusastro.kyoto-u.ac.jp 三重県亀山市の中村祐二(なかむらゆうじ)さんによって3月18.4236日(世界時、 以下同様)に9.6等で発見されたカシオペヤ座の新星V1405 Casは3月20日頃-5月初 頭までは7-8等を推移していましたが、5月7日ごろより急激に増光し、5月8日に は5等台まで明るくなり、肉眼新星となりました。 多くの新星のピーク時での絶対等級は、-6〜-9等くらいと考えられています。 しかし、V1405 Casが4月頃に示していた8等という見かけの明るさは、この天体 までの距離と星間空間での吸収などを考慮すると、絶対等級-5等にしか相当しま せん。つまり、4月の明るさは新星のピーク時と呼ぶには暗すぎると言えますが、 今回の増光で、漸く-8等ほどに到達したと言えます。 3月19.4日に京都大学岡山天文台3.8mせいめい望遠鏡によって行なわれた分光 観測、3月19.785日にU. Munariさんらのグループによって行われた高分散分光観 測などで、この天体のスペクトルは強い水素のバルマー系列・パッシェン系列や 中性ヘリウムの輝線が支配的になっていると報告されていました。その後、4月 6.7日頃より1階電離した鉄のスペクトル線が見え始めたことが報告されています。 そして、最近の急激な増光に伴うように、中性ヘリウムの輝線が消え、鉄の輝線 が顕著なスペクトルへと変化したことが報告されています。 この新星が爆発する前は、新星類似型変光星(nova-like variable)と呼ばれる、 白色矮星とロッシュローブを満たす低温の主系列星からなる激変星の一種であっ たと考えられます。このような天体では、白色矮星(主星)の表面に伴星から流れ 込んだ水素ガスが十分に降り積もった際、急激な核燃焼反応が発生して新星爆発 を起こすと考えられます。 この一連のスペクトルの変化は、新星爆発に伴って放出された物質が膨張する ことで、新星の温度が低下したことを反映していると考えられます。新星爆発の 開始直後は、爆発で放出された物質の温度が高いため、エネルギーの多くが紫外 線として放射されていましたが、物質が膨張して温度が下がったことで、大部分 のエネルギーを可視光線として放射するようになって、今回の増光に至ったと考 えられます。 今回V1405 Casで見られたような、新星のピーク付近での急な増光現象は、 V723 Cas(カシオペヤ座新星1995)、V5558 Sgr(いて座新星2007)、V5668 Sgr (いて座新星2015 No.2)、V612 Sct(たて座新星2017)などでは複数回確認されて います。今回のV1405 Casも同様に複数回の急な増光現象を起こす可能性があり、 今後の明るさの変化が注目されます。 2021年 5月14日 参考文献 vsolj-news 371 Taguchi et al., ATel #14478 (2021) Munari et al., ATel #14476 (2021) Shore et al., ATel #14577 (2021) Munari et al., ATel #14614 (2021) vsolj-news 318 vsolj-news 333 ※この「VSOLJニュース」の再転載は自由です。一般掲示、WWWでの公開  等にも自由にお使いください。資料として出版物等に引用される場合には出典  を明示していただけますと幸いです。継続的・迅速な購読をご希望の方は、  VSOLJニュースのメーリングリスト vsolj-news にご加入いただくと便利  です。購読・参加お申し込みはml-command@cetus-net.org に、本文が   subscribe vsolj-news  と書かれたメールを送信し、返送される指示に従ってください。  なお、本文内容に対するお問い合わせは、著者の連絡先までお願い致します。