国立天文台・天文ニュース (1)        149年ぶりに再発見されたドビコ彗星  1846年にイタリアのドビコ(De Vico)が発見した周期彗星が149年ぶりに 検出され、比較的明るい彗星として、明け方の東の空にその姿を見せています。  超大型といわれた台風12号が関東の東を通過し、台風一過で晴れ上がった 9月18日、明け方の東の空で「彗星を発見した」という報告が三人の方から 立て続けに国立天文台に届きました。発見者は三重県の中村祐二(Nakamura Yuji) さん、熊本県の宇都宮章吾(Utsunomiya Shogo)さん、福島県の田中政明(Tanaka Masaaki)さんです。彗星はほぼ7等の明るさで「うみへび座」を移動し、尾が わずかに認められました。  この発見は国立天文台から直ちに国際天文学連合へ報告され、9月18日付けの 国際天文学連合回報(IAUC 6228)に「彗星1995 S1」として公表されました。 あとから、アメリカ、カリフォルニア州のマクホルツ(D.E.Machholz)も1日遅れで 独立に発見していたこともわかりました。この彗星は昨年7月の「中村-西村- マクホルツ彗星」以来の日本人による彗星発見ですから、「中村-宇都宮-田中彗星」 と名付けられるものと思われました。  しかし、そうはなりませんでした。その後観測が重ねられ、この彗星の軌道が 計算されるにつれて、意外な事実がわかってきました。9月20日になって、その 軌道は1846年にドビコが発見し、その後見失われていたドビコ彗星(D/1846 D1) とほとんど一致することが明らかになったのです(IAUC 6232)。つまり、この彗星は 新彗星ではなく、かつて発見されたドビコ彗星の再出現でした。そのため、日本人 名の彗星が誕生するという期待は夢と消えました。これは、発見者にとっては残念 であったかもしれません。しかし、失われていた彗星を再発見した功績は、けっして 小さいものではありません。  周期彗星でも、軌道を一周して2回目の出現が確認されるまでは、その周期を 精密に決めることはむずかしいのです。周期の長い彗星ほどその困難さは増します。 このドビコ彗星は、過去の観測から76.3年周期と思われていましたが、今回の 検出によって74.36年周期であることがはっきりしました。これは、現在まで に2回以上出現している周期彗星の中では4番目に周期が長いものです。この周期 から考えると、1921年頃に最初の回帰があったはずですが、そのときは発見 されず、今回の2度目の回帰で149年ぶりに姿を見せたことになります。周期が 確定し、軌道が確実になりましたから、つぎの2070年の回帰の際には、確実に 発見できると思われます。  今回、ドビコ彗星の近日点通過は10月6日です。そのあと数日は、明け方の空 で「しし座」のデルタ星近くに5.6等くらいの明るさで見えますから、望遠鏡を お持ちの方にはぜひご覧になることをお勧めします。この明るさであれば比較的 容易に見ることができます。余談ですが、8月に発見されたブラッドフィールド 彗星(1995 Q1)も、多少暗いですがその近くにいます。ついでに探してみるのも 面白いでしょう。      1995年10月5日        国立天文台・広報普及室