自然科学研究機構 国立天文台

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国立天文台長 常田佐久

第6代 国立天文台長 常田佐久

常田佐久 国立天文台長

このたび、林正彦前台長の後を引き継ぎ、国立天文台長に就任しました。国立天文台は、ここ20年で飛躍的な発展を遂げ、世界の天文学を牽引(けんいん)する顕著な成果を上げてきました。特に、国際協力で建設され運用が行われているアルマ望遠鏡計画において、国立天文台の果たした役割は極めて大きく、日本の科学の発展にとっても、大きなマイルストーンとなりました。これまでの国立天文台の卓越した活動に、深い敬意を表します。このような輝かしい成果を挙げてきた国立天文台の台長に就任することになり、身の引き締まる思いです。どうかよろしくお願いします。

少し自己紹介をしますと、私は、人工衛星・観測ロケット・気球に搭載する新しい観測機器を開発し、太陽の磁場の起源や振る舞い、磁場のエネルギーを利用した太陽面爆発や彩層・コロナの加熱メカニズムを研究してきました。私が大学院に進学した頃は、野辺山の45m宇宙電波望遠鏡さえなく、世界と競争できるようなに先端的な観測機器は、この国にはありませんでした。そのような状況で、私は、「他の恒星に比べれば近い」ということで、太陽の研究を始めました。大学院のときに太陽観測衛星「ひのとり」搭載のすだれコリメーターを使った硬X線望遠鏡の開発に取り組み、その後、NASAと太陽観測衛星「ようこう」に搭載した軟X線望遠鏡の開発、太陽観測衛星「ひので」の可視光望遠鏡の開発に関わり、さらに気球・観測ロケットといった飛翔体を駆使した研究を行ってきました。「ようこう」、「ひので」の開発には、それぞれ10年近い期間を必要とし、機器開発で30年の研究人生のかなりの部分が経ってしまいました。大学院生たちと、これらの飛翔体で得られた観測データを使った論文もたくさん書きましたが、やはり今となっても記憶に残っているのは、観測装置と衛星の開発で、観測装置が宇宙で期待通りの性能を達成したときの安堵と喜びであります。

私から挙げる国立天文台の運営方針は、以下の6点です。

  1. 超大型望遠鏡TMT(Thirty Meter Telescope)計画を中心とする大型プロジェクトの遂行に万全の対応を取ること
  2. TMTに続くプロジェクトの立ち上げの検討を行うこと
  3. 大学・天文学コミュニティと国立天文台の有機的な協力体制を維持発展させること
  4. 天文台内部の研究者・職員の人材活用を図ること
  5. 文部科学省、他の自然科学分野、メディア等に対して、天文学のビジョンを説得力をもって訴えること
  6. スペースミッションへの展開

次に、これらのうちいくつかの点について、少し説明させていただきます。

TMT建設の課題の一つは、多額の建設・運用予算の確保で、これは容易なことではありません。大型科学プロジェクトの財政面の制約が強まりつつある傾向は、TMT計画や国立天文台に限った特殊事情ではなく、高エネルギー加速器研究機構(KEK)や宇宙科学研究所(ISAS)などにも、多かれ少なかれ同様の状況が見られます。このような全体的に厳しい環境のなかで、学術の重要性のみを訴えても当局の理解を得ることは難しく、自らスクラップ&ビルドを行う姿勢、国立天文台の持つ技術的資産を活用して、産業振興などの日本国が抱える課題の解決や国の事業へ貢献していく姿勢が求められています。これらの観点を含めた我が国における天文学研究の存在意義について、今一度の理論武装も必要かと思っています。

2番目の「次のプロジェクトの立ち上げに向けた準備」で大事なのが、これまでの国立天文台の成果を基礎としたTMT完成後の将来計画の立案です。今後20年程度のスパンで、国立天文台がどの方向に向かうのか、宇宙についてどのような新知見をもたらすことができるのかを、国民や政府、学術コミュニティにビジョンを持って説明し訴えていくことが不可欠あると思っています。基礎物理学や生物学に広がりつつある天文学の裾野を一段と広げた魅力ある将来の方向性を戦略的に提案していくことは、優秀な人材の確保、計画の実行に必要な資金の確保、ベストパートナーとの国際協力に貢献するでしょう。これにはまず、将来計画を立案できるための枠組みと仕組みの確立が重要であります。

最後の「スペースミッションへの展開」ですが、これは上記の将来計画の議論の中で位置づけていくべき重要事項の一つです。そもそも、国立天文台は「今後スペースに関わっていくのか?」、あるいは「いかないのか?」、「関わっていくのなら、どの程度のレベルで関わっていくのか?」が問われる時が来ています。地上の天文学での先端技術開発や大型プロジェクトの着実な実施を行っている国立天文台が、「ひので」の成功で示されたように、衛星や探査機に搭載する観測装置の開発にたいへん有利な立場にあることは、あまり理解されていません。地上も宇宙も大きな差異があるわけではなく、地上で実証してこそスペースへの適用が可能となります。国立天文台は、この潜在力をもっと活用すべきだと思っています。地上天文学の発展という国立天文台の本務をわきまえた上で、ISASではできない高度な観測装置・ミッションを提案・実施していくことを検討してよいのではないでしょうか。

前後しますが、4番目に挙げた「天文台内部の研究者・職員の人材活用を図ること」に関連して、プロジェクトが成功するための重要な点の一つは、日々プロジェクトの遂行と問題解決に努力している研究者、技術系職員、職員各位、関係する企業のエンジニアの高いモチベ―ションと連携です。これらの不屈の健闘なしには、国立天文台のプロジェクトの成功は望めません。一方、大型プロジェクトの時代となり、研究者の仕事の性質と範囲は激変しています。純粋な学術研究を行う研究者像から、プロジェクトの実施に最適化した研究者像への流れはある程度必然ですし、学術研究を中心に行う研究者、プロジェクトのマネージメントや開発研究を行う研究者・エンジニア、プロジェクトを支えるエンジニア・技術系職員といった、複数の異なるカテゴリーから成るバランスの良い人材構成とそれに対応した組織構成、彼らの間の良好な関係の構築が、これからはますます重要になると思います。

最後になりますが、これまでの国立天文台の成果は本当にすばらしく、国立天文台の発展にこれまで努力された先人の努力に、深い敬意を表します。これらの長年にわたって蓄積されたリソースをもってすれば、TMT計画を中心とした各種事業の発展とその先を見据えたビジョンの構築が可能であり、国立天文台と世界の天文学の新たな飛躍が可能であると思います。

台長に就任することが決まったあと、何人もの方から、「勝手知った天文台に戻るので大丈夫ですね」と声をかけていただいたのですが、国立天文台に在籍中はプロジェクトに傾注していたことと、ISASにいた5年のギャップもあり、国立天文台全体の動きには疎くなっている面があります。国立天文台の事業は、林前台長と前執行部の努力で発展を遂げており、新参者との認識で、各プロジェクト等の状況把握と職員の方々との対話を行うことから始めたいと思っております。

どうかよろしくお願いします。

2018年4月1日
常田佐久